石窯で燻製
今回も静止画像を十秒ごとに更新していく方式だ。音声はリアルタイムで送受信できるようなので、それほどストレスを感じるような事にはならないだろう。閑散期に感謝するゴパルであった。
向こうはレカが撮影しているようだ。カルパナの姿が最初に映って、合掌して挨拶をしてきた。
「こんにちは、ゴパル先生、ダナ先生。風邪をひいているそうですね。お加減は大丈夫ですか?」
ゴパルも丁寧に合掌して挨拶を返した。
彼のスマホは部屋の中のテーブルの上に立てかけてある。アルビンやダナにもよく見えるようにとの配慮だろう。
「こんにちは。風邪は良くなってきましたよ。明日からは何とか動けそうです。ポカラへ行けなくてすいません、今回も畑の様子を撮影したかったのですが……」
カルパナによると、ナウダンダでは桃園で土ボカシを追肥したという事だった。
「レカちゃんが居ますので、紅茶園について話してもらいましょう。レカちゃん、よろしく」
「はいはいー、レカにまかせろー」
元気な声がして、レカの顔の静止画像が映った。ゴパルがレカと挨拶を交わして口元を緩める。
(本当に、直接会わなければ平気なんだな。画面越しだと別人に見えるよ)
その元気なレカによると、紅茶園で苗木の定植作業をしたという話だった。
紅茶の苗木は高さ二十センチくらいまで育ったものを使う。良い苗木は幹が太くて、地面に近い位置から枝が数本出ているものらしい。この苗木を一ロパニ当たり九百本ほど用意する。一ロパニはおおよそ五百平方メートルだ。
苗木を定植する畑には、前もって雑草を刈り取って土にすき込んでおく。さらに緑肥と土壌の乾燥防止のためにイネ科の牧草の種を蒔いているそうだ。河岸段丘なので水はけは良好なのだが、それでも幅百五十センチほどの畝を立てている。
レカがドヤ顔に表情を更新させて話を続けた。メガネがキラリと光っている。
「大変な作業なのよー。ゴパルせんせーがやったら多分死ぬー」
どうやら定植作業で疲れて倒れていたようだ。ここは反論せずに素直にレカを称賛するゴパルであった。
「力仕事とか普段しませんからレカさんの言う通り、筋肉痛で翌日動けなくなっているでしょうね。私はこの通り、風邪ひいて寝込むくらいに体力がありません」
深くうなずいて同意しているダナである。その隣でアルビンも口元を大きく緩めて、肩を揺らしている。画面の隅に石窯が映ったので、話題を変えてみるゴパルだ。
「石窯が映りました。ずいぶんと黒くススが付きましたね。大活躍しているじゃないですか」
今度はサビーナが顔を出してドヤ顔で答えた。静止画像なので、タイミングのせいかかなりのドヤ顔に見える。
「使い方にもかなり慣れてきたってシェフや厨房スタッフが言ってるわね。改良もやってるのよ。今は魚の冷燻装置を取りつけて実験中よ」
燻製には大雑把に分けて高い温度で煙をいぶす温燻と、低い温度でいぶす冷燻、中程度の温燻とに分類できる。
特に魚介の燻製の場合では冷燻が適しているだろう。繊細な香りを付ける事ができ、過剰な熱によって魚介の身がパサパサになったりボロボロになったりしにくくなる。
「ポカラ工業大学のディーパク先生に指導してもらって、ゼオライトのフィルターも取りつけているわよ。先生の話だと、燻製の煙には発がん性物質とか厄介なモノが含まれているみたい。それをこのフィルターで取り除くって寸法ね」
サビーナの表情が少し困ったような笑顔に更新された。
「でも、燻製って煙でいぶすものでしょ。あんまりキレイな煙にされると、風味が乗らなくなって困るんだけどね。とりあえず豚肉と山羊肉、それに淡水魚で色々と試してみるつもりよ」
ポカラでは魚の養殖農家が多いので、コイやナマズ、テラピアにニジマスの冷燻を試しているという話だった。
「この間の日本酒の試飲会が刺激になったのよ。燻製を使った料理だったら、ワインにもウィスキーにも地元の焼酎にも合わせやすいしね」
燻製に使う木材については耕作放棄地に生えている雑木を使うという事だったが、寒緋桜といった香りのある木も検討中らしい。燻製料理は、そのまま使ったり、マリネにしたりする予定だとサビーナが話してくれた。
マリネに使う材料としては、定番のニンニクや玉ネギの他に、イタリアンパセリ、ネギ、ニラ、セロリ、バジル、オレガノといった香りのある野菜やハーブ、それにカルダモン等の香辛料を使うと言う。
「とりあえず、無難なクリームソースのパスタで試してみるつもり」
隣で物欲しそうな表情になっているダナとアルビンを横目に見ながら、ゴパルが明るく微笑んだ。
「楽しみにしていますね。それで、今回の料理の撮影は何でしたっけ」
サビーナがニッコリと笑って教えてくれた。今度はタイミングが合ったようで、どこかの通販用のモデルのような笑顔だ。
「鶏肉のチーズ焼き。フライパンでできる家庭料理ね」




