民宿ナングロ
ゴパルはポカラからABCへ戻った次の日に風邪をひいて寝込んでしまった。
低温蔵の当番はダナだったのだが、ジト目になって呆れている。もっさりした眉をこれ見よがしにひそめて、不満感を主張しまくっていた。
「使えない人ですね、もう。ポカラで次回の試飲会って、余計な仕事まで引き受けてきているしっ」
そう言ってポットの湯を入れ替えた。さらに洗濯物を回収していく。今は観光客が少ない時期なのでダナは別室だ。
ゴパルがモコモコしたダウンジャケットを着込んでベッドに寝ながら、両目を閉じて謝った。
「済まないね……熱はだいぶ下がったから、明日には動けそうだよ」
ダナが仁王立ちして腰に両手を当てた。高地に居るせいなのか、丸顔がいつも以上に丸く見える。
「そうでないと僕が困ります」
そして自身のスマホで時刻を確認して、ゴパルのスマホを投げて渡した。
「そろそろテレビ電話する時刻です。顔だけでも洗ってきたらどうですか。ついでにヒゲも剃ってください」
「うう……やっぱり顔を洗った方がいいよね」
ゴパルがベッドからモサモサと起きて、洗面所へ向かった。まだフラフラしている。当然のように肩を貸さないダナであった。ゴパルが温水器のスイッチを入れて顔を洗い始める。
「あっ、少しお腹が空いてきた気がする」
ダナがジト目を厳しくした。
「オートミールにしてください、ゴパルさん。今度は消化不良を起こしますよ」
「オートミールは嫌だなあ~。ディーロなら食べたいけど」
そこへアルビンがドアを開けて入って来た。盆にチヤとビスケットを乗せている。相変わらずの巨大な毛糸帽子だ。
「かしこまりましたー、ゴパルの旦那。粟のディーロで良いですよね。ダナの旦那はどうします?」
ダナが丸顔を膨らませながら、チヤとビスケットを受け取った。
「僕は白ご飯でお願いします。ゴパルさん、そろそろ時間ですよ」
ゴパルがフラフラしながら慌てて戻ってきて、ベッドに腰かけた。
「あわわ……遅刻したらサビーナさんから叱られてしまう」
そう言いつつも、しっかりとチヤをビスケットを受け取る余裕はあるようだが。
ゴパルが自身のスマホを手に持ってテレビ電話のアプリを起動させた。通信状態を示すアイコンを見てアルビンに聞く。
「アルビンさん。今の時期は観光客が少ないのですか? 予想以上に通信状態が良好なんですが」
アルビンがゴパルのスマホ画面を見てからニッコリと笑った。
「この時期は中国人観光客が減るんですよ。ええと……春節といったかな。ネパールでいうダサイン大祭みたいな感じじゃないですかね。インド人観光客は来月から増え始めますんで、ちょうど今は閑散期ですね」
アルビンによると、新婚旅行で訪れるインド人観光客が多いらしい。それでも、ここまで登ってくるような猛者は少ないそうだが。
そのような話をしていると、テレビ電話がつながったようだ。見覚えのある室内風景が映し出された。
「あ。ここはピザ屋の厨房だな。こんにちは、ゴパルとダナです。きれいな映像が届いていますよ」




