試飲会
会議室へ入ると、ちょうど試飲会の準備が整った所だった。給仕長が協会長達を出迎える。
「どうぞ中へ。料理は日本酒という事ですので魚介類のパスタを二品用意していますよ」
レカがすっかり寛いだ様子でイスにもたれかかっていて、ゴパルとカルパナにヒラヒラと手を振った。サルワールカミーズの上に厚手のセーターを着ている。今回もしっかりとスマホ盾を装備しているのだが、撮影をしている様子ではない。
首をかしげたゴパルに、ニンマリと笑いかけるレカだ。
「今回は撮影なしー」
サビーナがパスタ料理を大皿に盛りつけてから、軽く肩をすくめてゴパルに説明した。パスタの方は普通の細いスパゲッティである。在庫があるのだろう。彼女は白いコックコート姿にコックシューズだ。
「今回のパスタ料理には、ポカラ産やネパール産の素材をあまり使ってないのよ。ポカラ産はほうれん草と生クリーム、バジルくらいかな」
そんな訳で、パスタは生クリームソースとトマトソースの二種類だった。
生クリームソースの方はスモークサーモンとエリンギ、それにほうれん草が入っている。一方のトマトソースにはイカとアサリ貝にバジルの葉が入っている。
ゴパルが首をかしげた。
「トマトソースという割には色が黒いですよ」
サビーナが早速日本酒を入れたグラスを手にして答えた。
「イカスミを少し加えているのよ。トマトソースの方はトマトとバジル以外は全部輸入品」
ゴパルも日本酒のグラスを手にして遠慮がちに聞いた。
「サビーナさん。試飲会なのに輸入食材を使うのはぜいたくじゃないですか?」
サビーナが日本酒を口に含んでから、小首をかしげて答えた。
「日本酒には魚介でしょ。イカとアサリは冷凍だから遠慮しなくて構わないわよ。鮮魚じゃないし。それよりもゴパル君、この日本酒、ぬか臭いわよ」
ゴパルも一口飲んで頭をかいた。
「あっ、そうですね。ABCで飲んだ時には気がつきませんでした。やはり高地だと正確な評価ができませんね。ぬか臭いのは元の米の精米歩合が悪いせいですね。次からは改善します」
協会長も日本酒を試飲しているが、こちらは満足している様子だ。
「チャンや米の焼酎に比べれば気にならない程度ですよ。しかしそうですね……ABCでグルン族やプン族ばかりに飲ませるのも結構ですが、ポカラでも試飲会を多く開いてみませんか」
仕事が増えそうな予感がして、及び腰になるゴパルだ。とりあえず生クリームソースでパスタを食べて愛想笑いを浮かべた。
「クシュ教授と相談してみます。ですが、低温蔵で仕込む量は少ないですよ。頻繁に試飲会を開くことは難しいかと。あっ、このソース美味しいですね」
アバヤ医師は最初に古代酒に手を伸ばしていた。
「日本酒は何度も飲んだ事があるのでな。この酒は確かに甘味料として使えるほどに甘いな。シロップとして使えるのではないかね」
そう言って、レカが持ち込んだと思われる硬質チーズをツマミにし始めた。ネパールでは甘い牛乳粥のようなモノを食べるので抵抗が無いようだ。
レカも日本酒ではなく古代酒を手に取って同じ事をしている。さらに彼女の場合はイチゴまで口の中へ放り込んでいるが。
「ん~良いんじゃないかなー。カルダモンとか足したらもっと良いかもー」
カルパナは日本酒に魚介のトマトソースパスタを選んでいる。彼女も満足そうな表情だ。
「確かに日本酒って魚介と相性が良いですね。コイやナマズにも合うのかな」
ここでようやくゴパルが慌て始めた。ポケットからスマホを取り出す。
「あ……しまった。録音するのを忘れてた」
レカが撮影していなかったので、ついつい忘れてしまったようだ。アバヤ医師がニヤニヤしてゴパルの肩を小突いた。
「これで二回目の試飲会を開く理由ができたな、ゴパル君」
ゴパルが力なく愛想笑いを浮かべた。
「あはは……低温蔵でまた日本酒と古代酒を仕込む事になりそうですね」




