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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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バイク不調

 カルパナ種苗店から、替えのバイクに二人乗りしてルネサンスホテルへ向かうカルパナとゴパルだ。後部座席があるバイクなのだが、腰をかけた瞬間に嫌な予感を感じたゴパルであった。

(う……ギシギシと音がしたぞ。大丈夫かな)


 ゴパルの予感は見事に的中して、レイクサイドの通りを過ぎた辺りでバイクのエンジンが急に暴走し始めた。

 ゴパルが急激な加速に慌ててテールランプを両手でつかむが、その手が滑った。リュックサックを背負っていたので、上手くつかめなかったようだ。

「ぎゃ……」

 真っ青になったゴパルが、後ろにのけぞったままバイクから転げ落ちそうになる。と同時にカルパナが急ブレーキをかけた。

 今度は前につんのめるゴパルである。当然ながらカルパナの背中に正面衝突して、彼女のヘルメットに自身のヘルメットで頭突きをしてしまった。ゴン、と鈍い音がして、ゴパルの頭に衝撃が駆け抜けた。

「ぷげ……!」

 急ブレーキをかけたが、暴走エンジンの力が強くて停車できないようだ。カルパナが軽く頭を傾けて、ため息をついた。

「はあ……壊れちゃったか」


 パニック状態で硬直しているゴパルとは対照的に、落ち着いている様子のカルパナだ。

 バイクのクラッチを切り、暴走中のエンジンを駆動系から切り離した。ひと際高いエンジン音が鳴り響いて暴走が加速していく。

 しかし、タイヤに動力が伝わっていないので、バイクが加速して走り出すような事にはなっていない。

 ゴパルがカルパナに抱きつきながら、顔を青くした。

「ま、まさか爆発するんじゃ……」

 カルパナが落胆した口調で答えてくれた。

「しませんよ」

 バイクの鍵を使ってエンジンを強制停止させた。燃料の供給が無くなったので、エンジンがすぐに止まる。そして、カルパナにしがみついたままのゴパルに、遠慮がちに告げた。

「ゴパル先生。もう大丈夫ですよ」


 はっと我に返ったゴパルが、慌てて体を離してバイクから飛び降りた。慌て過ぎているので、そのまま転ぶ。後頭部を地面に打ちつけてしまったのだが、ヘルメットのおかげで無事だった。

「あわわ……すいません、カルパナさん。いきなりでびっくりしてしまいました」

 カルパナもバイクから降りて、ヘルメットを外した。転んだままのゴパルに手を伸ばして立ち上がらせる。

「私こそすいません。さっき大丈夫だと言ったばかりでしたのに」


 エンジンを見てから、再びキックスタートでエンジンをかけた。やはり今度もエンジンが暴走する。否定的に首を振るカルパナだ。

「完全に壊れちゃったな。ゴパル先生、これでも一速ギアにして二人乗りなら、何とかホテルまでは走る事ができますが、どうします?」

 ゴパルがズボンや背中に付いた汚れを手で払い落して、大真面目な表情で答えた。

「歩いていきましょう!」


 バイクについては、カルパナが電話をかけるとすぐにアンバル運送のアンバル社長がすっ飛んできた。

 アンバル運送と書かれたピックアップトラックは、ゴパルにも見覚えがある。運転席から飛び降りて、真っ青な顔でカルパナに駆け寄った。

「お体は大丈夫ですかっ、カルパナ様っ」

 何事かと観光客や学生達が集まってくる。顔を赤くして周囲の人達を気づかいながら、カルパナがアンバル社長に答えた。

「大丈夫ですから、あまり大きな声を挙げないでください」

 ほっとしたアンバル社長が、壊れたバイクをピックアップトラックの荷台に乗せるように、一緒に連れてきた部下に命じた。ゴパルが少し感心しながらアンバル社長に挨拶する。

「こんにちは。バイクのエンジンがおかしくなるとすぐに停車しましたから、大丈夫ですよ。しかし、カルパナさんが電話をしてから、まだそんなに時間が経っていませんよ。迅速ですね」

 アンバル社長がゴパルに気づいて挨拶してから答えた。

「ちょうど車の修理工場でチヤ休憩をしていたんですよ。うちの替えバイクで一番状態が良かったんですがねえ……やはり部品不足が深刻ですね」


 彼によると、エンジン部分での部品不足が特に深刻だそうだ。このバイクでもゴム製のパッキンやオイルシール、ガスケット、それにオーリング等では、代わりに自作の紙製の物を使用していると話してくれた。

 ゴパルが顔を青くしながらアンバル社長に聞く。

「そ……それで大丈夫なのですか?」

 アンバル社長が苦笑して頭をかいた。警官も人混みに気がついてこちらへやって来ているので、ピックアップトラックの運転席へ飛び乗ってエンジンをかける。

「大丈夫じゃないっすねー。現にこうして故障してますし。では、カルパナ様っ。急いで替えのバイクを用意いたしますのでチャイ、しばらくお待ちください。では!」

 そのままピックアップトラックで走り去ってしまった。ヘルメットも一緒に運んでもらったので、今は二人ともに手ぶらだ。


 見送ったゴパルの脳裏に、『役に立たない機械など、窓から投げ捨ててしまえー!』というクシュ教授の口癖が幻聴で聞こえた。

(さすがにバイクは重くて投げ捨てられませんよ、クシュ教授……)

 ほっと一息ついたカルパナにゴパルが歩み寄った。

「それでは歩いて行きましょうか、カルパナさん」


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