ちょっと実演
カルパナが簡易ハウスの中を案内していく。
その一角では、台木の先端部分が切り取られている状態のものが並んでいた。全ての枝葉が切除されて、幹だけになっている。その幹も上端はスパッと切断されていた。
「接ぎ木の準備をした台木ですね。ちょっと実演してみましょうか」
カルパナが薄くて鋭利なナイフを手にして、刃をバーナーで炙って焼いた。それが冷えてから台木の上端部分にナイフを当てて、樹皮に八センチほどの切れ目を入れる。
カルパナがバケツに差し込まれていた枝を一本引き抜いた。桃の枝で長さは十センチちょっとくらいか。芽が三つほど付いている。
この枝の切り口を再び炙って冷やしたナイフで薄く削りとり、台木の切り口に差し込んでピタリと断面を合せた。樹皮と樹皮の切断面を合せている。
「枝は今日剪定した桃の若枝です」
そう言って、カルパナが台木と枝をテープで手早く巻いて固定した。そして最後に枝全体をプラスチック袋で包んだ。
ゴパルが撮影するのを見つめながら、簡単に説明する。
「こんな感じですね。枝の芽が大きくなったら袋を外します。テープは次の年に外の畑へ定植するまで外しません」
簡易ハウスから外へ出ると、カルパナがまだ小さい接ぎ木苗の列にゴパルを案内した。土を耕した跡が新しい。
「昨日、一年間育てた接ぎ木苗をここへ定植しました。今回からは植穴に、KLに漬け込んだもみ殻燻炭と土ボカシを混ぜたモノを一キロ入れています」
植えられた接ぎ木苗の間隔は縦横ともに五十センチほどだ。接ぎ木苗は植えつけた後に、地面からの高さ九十センチ以上の部分を切り落としていた。
その切り口に木工用ボンドが塗られている事を確認したカルパナが話を続けた。
「接ぎ木苗は、根が活発になるまでに二週間くらいかかりますね。ですので、その間は念入りに散水しています」
カルパナが苗木の列を見つめながら、話を続けた。
「今回は、KL培養液と光合成細菌の希釈液を使うつもりですよ。根が活発になると枝に張りが出て、葉も元気になります。そうなれば土を少し乾燥気味にします」
ゴパルが撮影を終えて感心した。
「さすがですね。すっかりKLや光合成細菌の使い方に慣れているようで驚きました。土ボカシも積極的に使っていくのですね」
カルパナが明るい表情でうなずいた。天気が良いおかげでフェワ湖からの上昇気流も強まっているようだ。彼女の腰まで伸びている癖のある黒髪がフワフワと持ち上がっている。
「今までは、肥料や堆肥が足りなくて本当に困っていましたので、ちょっと浮かれていますね」
そして自身のスマホで時刻を確認して、スラリと整った細い眉を軽くひそめた。
「うう……また長く話し込んでしまいました。パメに下りましょう。スバシュさんが待っています」
ナウダンダからは歩いて急斜面の段々畑の坂を下りていくカルパナとゴパルであった。ゴパルは暑くなったのか、ジャケットを脱いで腰に巻いている。
「さすが南斜面ですね。冬でも暑いくらいだなあ」
カルパナが先を歩きながら振り返って謝った。彼女もジャケットの前を開けていて、サルワールカミーズが見えていた。肩にかけているストールが、上昇気流に乗ってヒラヒラと舞い上がっている。
「すいません、ゴパル先生。替えのバイクの調子が悪くて」
ゴパルが少しドヤ顔になって明るく笑って答えた。
「大丈夫ですよ。足腰が鍛えられて強くなってきましたから、この程度何ともありません。お腹も引っ込んできたようですしね」
カルパナがクスクス笑った。
「そうですね。私から見てもスリムな体になってきたと思います」
パメまで下りる道は、観光客が歩くような整備された状態ではない。ジヌーからセヌワに向かう道よりは少しマシな程度だ。それでも軽快に下り階段を下りていく二人であった。
坂道を下りていく間に、カルパナが色々と話してくれた。ゴパルが興味を大きく抱いたのは、やはりKL関連の話だ。
シスワのイチジク園と、バグマラのオリーブ園の作業の話を聞いて自身のスマホに音声入力でメモを取っている。
「土ボカシって本当に使い勝手が良いのですね。研究しようかな」
セヌワのイチジク園では廃油を染み込ませた土ボカシを、一本当たり百五十グラムの割合で追肥したという話だった。同時に五十グラムの草木灰も撒いているとカルパナが教えてくれた。
「木の根元から少し離れた場所に撒いていますよ」
オリーブ園では、葉の色が悪い場合に土ボカシを根元に置いていると話してくれた。
「厚さは一センチくらいですね。日陰がちな土地ですのでいつも元気が無いのですが、元気になると嬉しいですね」




