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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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ナウダンダの段々畑

 ナウダンダの段々畑では、冬野菜やイチゴの収穫が最盛期を迎えていた。

 イチゴは品種改良があまりなされていないため、小粒で酸味が強い品種だ。野菜の方は、この時期の代表にもなっている巨大なカリフラワーがよく目立っている。直径が三十センチ以上もある。

 カルパナが作業員達に合掌して挨拶をしながらゴパルに説明した。

「カトマンズローカルという品種です。KLと同じ名前ですね。農家の方は高く売れるのでコレを植えたがるのですが、連作障害が起きますので輪作を勧めています」


 実際に段々畑を眺めてみると、様々な野菜が栽培されていた。複数の野菜品種の混植もしている。この時期の葉野菜として代表的なのは、他にほうれん草やレタス、それにニンジンだ。

 ナウダンダの集落そばにある段々畑をカルパナが指さした。

「あの畑では、サビちゃんが使う野菜やハーブを栽培しています。セロリやイタリアンパセリ、それにバジルとかですね。西洋ネギも栽培してはいますが、なかなか思うように育ってくれていません。肥料不足が原因ですね」

 ゴパルも目を凝らして沢向こうにある集落の段々畑を見つめる。彼はあまり視力が良くないので、よく認識できていないようだ。

「と、いう事は……あのサビーナさん用の畑にも、生ゴミボカシや土ボカシを使っているのですか?」


 カルパナは視力が良い様子で、特に目を凝らしてはいない。答える前に、近くのイチゴ畑の畝に置いてある肥料袋を開けて、中の粒状の固形有機肥料を取り出して見せた。

「生ゴミボカシを最初に使ったのですが、見事に野犬と野ネズミに荒らされてしまいまして。それからは、生ゴミボカシ製造機で作ったボカシ肥料の試作品を使っています。ポカラ工業大学のスルヤ先生が開発していたものですね。これがその試作品の最終版です」


 ゴパルもそのボカシ肥料を手に取ってみる。粒状に固められていて、作業員が使いやすいように工夫されていた。いわゆるペレット肥料である。

 生ゴミの原型は残っておらず、茶色の粒状だ。臭いも確認して、満足そうにうなずいている。

「十分に発酵していますね。ええと……確か、生ゴミボカシを脱水粉砕してから高温乾燥して、それにKL培養液と米ぬか嫌気ボカシを添加して再発酵させた……のでしたっけ。完成度が高いですね。これならすぐにでも商品化できそうですよ」


 パッチリした二重まぶたの目をキラキラさせて、カルパナがニッコリと笑った。

「そうですよね。とりあえず今は、サビちゃんの畑と実験用の畑で全ての野菜とイチゴ品種に使って、その効果を調べています。野菜の品種ごとに使い方も変わってくると思いますし、使い過ぎはお財布にも土にも良くないですから」

 ゴパルが感心しながら、軽く首をかしげた。

「使い過ぎって、どうやって調べているんですか? 研究室に送って土壌分析すると高くつきますよね」

 カルパナが控えめなドヤ顔で微笑んだ。

「肥料を使い過ぎなのかどうかは、葉の色でおおよそ分かりますよ。葉に毒が含まれていない作物でしたら、葉や芽をかじったりもします」


 段々畑によって土の状態が異なるので、土壌分析は一番良い畑と悪い畑だけで行っているという話だった。他の畑はその中間値になるはずなので、葉の色や味で判断しているらしい。

 全ての段々畑に同じ作物を植えていればそれでも良いのだろうが、ここでは多種多様な作物を植えている。当然ながら作物の品種ごとに葉の色や味も違うので、カルパナの主観的な判断になる。


 そのような事を思うゴパルであったが、ここは素直に聞いている。

(私がクシュ教授にそのような事を言ったら、猛攻撃を食らうだろうなあ……)

 ゴパルの脳裏に、クシュ教授が呆れた表情でツッコミを入れてくる様子が浮かんだ。気象と土壌成分のデータはどうした、数値を出したなら数式を見せろ、統計処理では何を使った、主観だあ? 農学なめてるのか等々……。

 口を真一文字にして両目を閉じて呻いているゴパルに、カルパナが小首をかしげた。

「ゴパル先生? どうかされましたか?」

「……ふと、クシュ教授の顔を思い浮かべてしまいまして。すいません、話を続けてください」


 何か察したカルパナが話を切り替えた。段々畑の上の方を指さす。

「あの辺りに桃園があります。品種は『さくひめ』と『西王母』ですね。どちらも首都にある種苗店で買ったものです。私が子供の頃に父が買ったので、二十年くらい前になりますね」

 ゴパルもカルパナが指し示した桃園を見上げた。ここからでは桃の枝しか見えない。今は冬なので葉も落ちているようだ。

 カルパナが申し訳ない表情になった。

「隠者さまが結界を張っていますので、桃園の中へ入る事は遠慮してくださいね。昨日から、桃の枝の剪定作業を行っています。剪定した枝は、後で接ぎ木苗に仕立てますよ。そうやって桃の木を増やしてきました」


 この時期の剪定作業は、込み合っている場所の枝や、伸びすぎている枝を切って間引いている。桃の樹冠内部に日が当たるようにするためだ。その他の枝は、先端に葉芽が二、三個残るように切り返す。こうやって、全体の仕立てはY字になるらしい。開心自然形とも呼ばれる仕立て型だ。


 カルパナが桃園から背負いカゴを担いで下りてきた作業員達に合掌して挨拶を交わしてから、ちょっと考え込んだ。すぐにゴパルに顔を向ける。

「桃園は入れませんけれど、接ぎ木苗の畑でしたら大丈夫かな。そこにも結界は張られているのですが、作業員の方々が大勢出入りしています。ゴパル先生もその一人という事で」

 ゴパルが喜んで了解した。

「分かりました。せっかくですから見てみたいですね」


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