試飲会のお知らせ
低温蔵へ戻ったゴパルは、今回は博士課程のスルヤと一緒に仕事をしていた。日本酒やチャン、それに古代酒を仕込んでいた百リットルタンクは洗浄されて空になっている。
今もアンナプルナ内院は氷点下の気温なので、二人ともにダウンジャケットを着て毛糸の帽子を被った冬仕様装備だ。
記録した内容をスマホで確認しながらゴパルが残念そうにつぶやいた。
「まだ気温が低いから、もう一回くらい仕込んでみたかったなあ」
スルヤが白い息を吐いて肩をすくめた。
「他にも研究がありますし、日本酒ばかりに時間を取るのは感心できませんよ、ゴパルさん。仕込んだとしても、倉庫の空き容量には限度があります。このままでは酒蔵になってしまいますよ」
ゴパルが毛糸の帽子を手でかいて両目を閉じた。
「だよね。酒飲みが多いから、ついつい酒の仕込みの事を考えてしまうよ。反省しないといけないな」
そして、スマホでチャットを確認する。ほっとした表情になるゴパルだ。
「日本酒とチャンと古代酒のサンプルが、ルネサンスホテルに無事に着いたようだよ」
そう言って、ゴパルがスマホ画面をスルヤにも見せた。
「チャットで連絡が入ってた。ディワシュさんやサンディプさんのおかげだな。気圧差があるから、いくつかの容器は破損するかと不安だったけれど、良かったよ」
スルヤもほっとした表情だ。顔は四角くて大きいのだが、全体にこじんまりとした印象なので影が薄く見える。
「この分でしたら、首都にも無事に届きそうですね。残りの酒はきちんと低温蔵で保存しておきました。酒泥棒にさえ注意すれば、熟成中の菌の変化について研究を続ける事ができますよ」
日本酒は長期熟成はしないのだが、ここでは研究目的で熟成させるようだ。この場合、日本酒は殺菌ろ過していない状態のものを使う。
古代酒は糖度が高いのでシロップ扱いだ。保存はするのだが微生物の活性研究には適していない。チャンはそもそも長期保存ができない酒だ。
ゴパルがチャットの文章を読み終えてから、少し考え込んだ。
「日本酒や古代酒の試飲会をルネサンスホテルで行うようだね。エリンギ栽培もこちらに不手際があったし、ポカラへ下りてみるよ」
スルヤが諦め顔でうなずいた。
「試飲の評価データは多い方が良いですしね。エリンギもラメシュが本来は謝罪に行くべきですが、風邪ひいて寝込んでますからね。インフルエンザには注意しろと言ったのに。低温蔵の仕事は僕がやっておきますよ」
ゴパルが感謝した。
「ありがとう、スルヤ君。何かお土産を買って戻るよ。何が良い?」
スルヤがニヤリと笑った。
「では、ポテトチップスの袋菓子を。ここに持ってくると気圧差でパンパンに膨れ上がるんですよね。そいつを叩き破るのが楽しくて」




