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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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昼ごはん

 ゴパルが頼んだのは、ニジマスのカレー煮と、同じくフィレ肉の炭火焼きだった。これに白ご飯と、ダルという豆スープ、それに大根の香辛料漬け物が付く。ちょうど昼時だったので、それほど待つ事も無く料理が出てきた。

 ネパール人やインド人は、食事中には水しか飲まないので、水の入ったガラスコップを、まず一口飲むゴパルだ。

「これは美味しそうですね」


 店内には、他に数組の欧米人観光客が席についていて、瓶ビールをコップで飲みながら、ニジマス料理を食べている。香辛料が控えめなので、彼らの口にも合うようだ。談笑している。

 服装は厚手のレインウェアに、登山用のズボン、それに防水仕様の登山靴だった。この雨の中でも、果敢に氷河へ向かうのだろう。

 彼らが飲んでいる瓶ビールは、ナヤプルから運び寄せている。銘柄は、フィリピンとオランダのものだった。ただ、どちらもネパールで現地ライセンス生産をしている。

 ドリンクメニューには、ネパールの地元メーカーのビールもある。しかし残念ながら、その銘柄は注文されていなかった。

 まあ、アンナプルナ連峰に来ているのに、エベレスト峰の絵が描かれて、銘柄名もエベレストのビールは、ちょっと考える。他には、大きな星印が描かれたラベルのビールもあった。値段も、それほど大差が無いので、外国のビールが飲まれているようである。


 グルン族の家族連れも二組ほど居て、ゴパルと同じような料理を食べていた。彼らはグルン族なので、男達は水では無く、度数の低い蒸留酒をコップで飲んでいる。女と子供達は水である。

 子供の爪の先ほどの大きさがあるハエが飛び回っているので、コップと瓶の口には、小さな覆いが被されていた。


 蒸留酒の香りが漂ってきた。控えめな甘い花の香りだ。種菌は恐らく、店で買っているのだろうが、酵母菌は空気中に漂っているものが繁殖したものだ。

 使っている酵母菌やクモノスカビによって香りが異なってくるので、店の個性が出てくる。もちろん、この酵母菌は、この店に居ついている地元の野生株である。

(これは、シコクビエの蒸留酒かな。良い具合に発酵できているようだ)


 ポカラでは、このシコクビエを発酵させて、蒸留した焼酎が人気である。アルコール度数が十度程度しかないので、温めてそのまま飲むのが普通だ。

 もちろん、簡易酒造所の許可を得ていると、メニューに書かれている。地ビールの焼酎版といったところか。でなければ、単なる密造酒である。


 ゴパルもこの焼酎を頼もうかと考えたが、今は飲まない事に決めた。千鳥足になって酔っぱらいながら、宿を探すのは大変だ。とりあえず、洗面所へ行って手を洗ってくる。

「では、食べるとしよう」

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