レカ問題
しかし、いざ席に座ると緊張のせいか挙動不審な動きを始めるレカであった。テーブルにはゴパルの横にレカが座り、向かいにサビーナが座る形になっている。
ゴパルができるだけ刺激しないように、落ち着いた口調でレカに話しかける。
「レカさん。カルパナさんの代わりに私の面倒をみると聞きましたが、普段通りで構いませんよ。ただの山羊が横に居ると思ってください」
レカがスマホ盾をゴパルに向けて、ぎこちなく笑った。
「へ、へへへへ平気だしー、全然全く完璧に平気だしー。ゴパル山羊せんせーなんか平気だしー」
サビーナが赤ワインを開けて味見をしながらニヤニヤ笑っている。当然のようにバクタプール酒造の赤ワインだ。
「カルちゃんの存在感って相当大きかったみたいね、レカっち。いい加減に人見知りの癖は直しなさい。今回の試食会は良い機会よ。太った山羊ならリテパニ酪農で見慣れているでしょ」
さんざんに山羊だ山羊だと言われているゴパルだが、特に気にしていない様子だ。牛糞先生よりはマシなのだろう。
とりあえず緊張を和らげるために、レカに話を振ってみた。
「レカさん。そういえば紅茶園とオリーブ園へしばらく行っていませんでした。今はどんな様子ですか?」
レカがスマホ盾の向こうでドヤ顔になった。
「どっちもすくすく育ってるー。このレカ様がちょっと本気出したらこんなもんー」
どうやら、あれから彼女なりに積極的に畑仕事に関わっていたらしい。紅茶園やオリーブ園では、廃棄乳をKLで発酵させた液肥を惜しみなく使っているという事だった。光合成細菌は家畜の尿を加えて散布しているとも説明してくれた。
牛糞は樹皮と混ぜてバーク堆肥を作成中だそうだが、これにはまだ時間がかかるという予想だ。
「牛糞や山羊糞を普通に厩肥にもしてるー。ガチで悪臭がしなくなってきたー」
ゴパルが感心しながら聞いて、自身のスマホで録音していく。
「そうなんですか。KLにそんな効果があったんですね、驚きました。生ゴミボカシだけでも驚きだったのに、まだあるんですね」
レカがドヤ顔を続けながらニンマリと笑った。
「そーそー、生ゴミボカシ製造機ー、そろそろ試作機が完成するってー。ディーパクせんせーが言ってた」
開発優先度がかなり下がっていたのだが、しっかりと開発を進めていたらしい。当のスルヤ教授とディーパク助手は、今はポカラ工業大学には居ないとレカも教えてくれた。首都でパンチャミ祭りが行われていて、その関連でサラスワティ寺院へ礼拝しているという事だった。
一方のサビーナは、食事前に牛糞だの家畜尿だの廃棄乳だの生ゴミだの聞かされて、無言のジト目になっているが。険悪な空気がサビーナから発してきたのを察したゴパルが慌てて話題を変えた。
「ええと、オリーブ園の方はどうですか? 枝を切ったりするんでしょ」
オリーブの木では、この寒い時期に枝の剪定を行う。下向きに伸びた枝や、葉が少なくて細い枝、反対に周辺の枝と比べて伸びすぎてる枝を切る。さらには枝が込み合っている場所も切って枝を間引きする。こうする事で十分に日光が当たるようにするのだ。
なお、五年に一回の割合で思い切った剪定を行い、古い枝を減らしてオリーブの木の若返りを図ったりもする……のだが、レカは枝切りには興味無かったようだ。ニマニマ笑いながら適当に言ってごまかした。
「枝切りは作業員に任せてるー。平気平気ー」
とりあえずレカの緊張が和らいだので、これで良しと判断するゴパルであった。サビーナもゴパルに微笑んでから、赤ワインが注がれたグラスを置いていく。
「それじゃあ試食を始めるか。最初は牛になった気分でサラダを食べてね。レストランでの料理進行に沿って試食してもらうから、きちんと食べるのよ。サラダを食べてからメインディッシュだからね」
ゴパルとレカが適当な敬礼を返した。
「ウイ、シェフ。サビーナさん」
「ウイ、シェフ。サビちゃん」




