試飲会
チャンは飲みなれているので特にこれといった感想は出なかった。がっかりするゴパルだ。
「そんなに特徴のない風味でしたか。要改善ですね」
ニッキがあっという間にグラスを空けて、太くて短い眉を上下させた。
「いや、十分に美味い。宿に置けば売れるよ。これまで二回飲んでるからナ、同じ感想になっちまうだけだ」
アルジュンが同意して、同じような太くて短い眉を上下させた。この二人は兄弟だ。
「そういう事だナ。次は山米を使うと良いぞ。俺達グルン族はチャイ、山の棚田で作った米で仕込むんだよ。美味いぞ」
ゴパルがスマホにメモしてうなずいた。
「なるほど。山米は生産量が少ないので探すのが面倒ですが、提案しておきますね」
ディワシュとサンディプは早くも二杯目を飲み終えていた。かなりご機嫌だ。
「この低温蔵では、チャンの種菌を研究してるんだろ? さっさと実用化してくれや、ゴパルの旦那。ナヤプルの居酒屋に売り込むからよっ」
「強力隊やロバ隊の仕事が増えるナ。大歓迎だぜ、ゴパルの旦那」
ひとしきりゴパルに言ってからは、ひたすらグルン語で何か歌いながら三杯目をグラスに注いでいる二人であった。
茶店のオヤジ二人も嬉しそうにチャンと日本酒を飲んでいる。
「ABCの酒蔵って事で宣伝しておくよ。プン族の拠点のゴレパニにもバーがあるぞ。そこのオヤジに言っておくよ」
「ヒンクの洞窟で酒を出したら、酔っぱらって崖から転げ落ちる客が出そうら。近くのデオラリの宿に置くようにするらー」
そして、二人して古代酒を飲んで目を丸くして驚いた。ゴパルが頭をかいて口元を緩める。
「すいません、説明していませんでしたね。古代酒は、水の代わりに酒を使って何度も繰り返して酒を仕込む方式なんですよ。かなり甘口でしょ。でも、ビール程度のアルコール度数です」
シャウリバザールの茶店のオヤジが、目をキラキラさせている。気に入ったらしい。
「そうかー。前回飲んだ時よりも凄く甘いから驚いたぼ。面白いら」
彼はいつもはきちんとしたネパール語を話しているのだが、こういう時には訛りが出てしまうようだ。
ツクチェの酒造所のマハビル社長は、まず日本酒を試飲していた。彼もこれが気に入った様子である。ハの字型の眉の下のつぶらな黒い瞳をキラキラさせながらゴパルに聞いてきた。
「良い風味ですね。米というよりは果実風味がします。うちの会社ではリンゴ果汁を醸造したシードルを作っているのですが、この低温蔵で研究できますか?」
ゴパルが即答した。
「喜んで研究しますよ。この低温蔵の目的は、国内の微生物資源の保護ですからね」
そう言ってからゴパルが軽く首をかしげた。
「しかし、シードルってリンゴの香りが強い酒ですよね。首都ではあまり見かけませんよ。輸出しているのですか?」
マハビル社長がハの字型の短い眉を、さらにハの字型にした。
「うちで作っているのは甘口のシードルですね。ワインやビールと違って、料理と一緒に飲む人が少ないんですよ。マッシュドポテトにはそれなりに合うんですが、肉や魚料理との相性が今一つでして」
食前酒や食後酒、デザート酒としては良いそうだが、食事中に飲むには甘いらしい。
「ジョムソンのホテル協会長さんに頼んで、ジョムソンのホテルのシェフに色々と試してもらったのですが……煮込み料理やソースの材料としては使えそうですが、それも豚肉料理だけになりそうで。でも単価が安いんですよね、豚肉料理って」
ゴパルがスマホで録音しながら、素直にうなずいた。
「なるほど……そんな課題があるんですね」




