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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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隠者の庵

 翌日の夕方にゴパルがポカラに到着した。そのままルネサンスホテルへ向かい、協会長に合掌して挨拶をする。

「ラビン協会長さん、今回は急なお願いですいません。明日の交流会の準備をしに来ました」

 協会長が穏やかに微笑んで合掌して挨拶を返した。

「わざわざABCから下山してお疲れさまですね。汗を流してからロビーに下りてきてくださいな。いくつか指示を仰ぎたい点があります」

 部屋の鍵を受付けから受け取ったゴパルがうなずいた。

「分かりました、ラビン協会長さん。五分くらいでロビーに戻りますね」

 いつもの男スタッフと一緒に階段を駆け上っていく。その後はロビーに戻り、一緒に交流会の準備を始めた。


 その頃パメにある隠者の庵では、カルパナがいつものように弁当箱を届けていた。カリフラワーの香辛料煮込みに目を細める隠者と修験者達だ。先日の新人修験者も今は慣れている様子である。

 カルパナから明日の交流会について話を聞いた隠者が、弁当箱を横に移動させた。琥珀色の瞳に鋭い光が宿っていく。

「ふむ。微生物の働きを調べるために、今では人工知能に頼っていると聞く。そしてその人工知能が出した答えを、疑いもせずに信じる科学者が増えているとも聞く。危ういとは思わぬかね? カルパナ」


 カルパナがキョトンとして聞いているので、隠者が説明しながら話し始めた。人工知能というのは、この場合コンピュータのソフトを指す。命令に従って学習を行う。膨大な情報を読み込んでいく機械学習と呼ばれる方式が主流である。ハード型の方が優秀なのだが設計が面倒でコストもかかるため、弱小研究室では高嶺の花である。

「この機械学習の基礎は統計学だ。もっと言えば確率論に至る。確率を扱うので、時々間違えるのだよ」


 例えば正答率九十九%以上でも、一%以下の確率で間違いを起こす。そのため、実際の人工知能では他の数学理論も取り入れている。

「間違いを内包している以上、どうしてこの答えになったのかを科学者は知る必要がある。でなければ、人工知能はブラックボックスと化して誰にも手出しできなくなり、理解もできなくなる」

 隠者がとつとつと話していく。

「人工知能だけが情報網を作り、その網から人間が締め出される事態も起こり得るのだよ」


 それを防ぐためには……と隠者が話を続けたのだが、人工知能が出した答えを逆算して確認するための帰納法的な数学処理とか、それだけでは不十分なので伝統的な数学的演繹法も不可欠なのだ……云々となってしまった。

 さすがに目を回しているカルパナだ。修験者達も目を回し始めたので、隠者が話を止めてコホンと小さく咳ばらいをした。

「あー……ともかく、素直に信じるなという事だな。カルパナは明日のKL交流会には出るのかね?」


 カルパナが我に返って否定的に首を振った。

「いいえ。ゴパル先生やクシュ先生によると、面倒くさい人達ばかりのようでして。難しい専門用語を当たり前のように使う会場になるので、来てもあまり意味はないそうです」

 隠者がジト目になってうなずいた。

「フン、典型的な科学者どもだな。時間の無駄という点ではワシも同意見だ。先程ワシが説いた事は忘れろ。もう知らん。カルパナは、畑を見て回った方が有意義だろう」

 カルパナが遠慮がちに告げた。

「アバヤ先生だけは参加するそうですよ。お医者様で賢いと理解できるのでしょうか」

 隠者が噴き出して大笑いを始めた。

「だと良いな。さて、弁当が冷めてしまいそうだ。皆の者、ありがたく糧をいただこう」

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