試食と雑談
まず最初に試食したのは、クリシュナ社長と売り子のラジェシュだった。元々小さいセルクルで作っていたので試食サイズも一口程度だったのだが、大いに喜んでくれたようだ。
二人してタイプの違う挙動不審な動きをしながら、口をそろえてサビーナにニッコリと笑いかけた。
「美味いっ。さすがサビーナさんだ」
ドヤ顔をしながらも照れるサビーナであった。彼女が次に一口分サイズのチーズケーキを口にして、満足そうな表情になった。
「ん。思ったよりも上手くできたかな」
レカが固定カメラの片づけを途中で止めて、二口分の量のチーズケーキを口の中へ押し込んだ。メガネの奥の二重まぶたの目が嬉しそうに細められていく。
「んん~……おいしいー。チーズとパッションフルーツうまい~」
最後にカルパナとゴパルが試食して、残りは屋台の客に無料で振る舞われた。早速ラジェシュが客に向けてクリームチーズと生クリームを積極的に売り始めている。それを眺めて感心するゴパルだ。
「さすが商売人のネワール族ですね。行動が早い」
カルパナが売り子に加わったのを見つめたサビーナが、口元を緩めながら軽く肩をすくめた。
「カルちゃんは、お人良しだからねえ……」
そう言ってから、屋台の中に置かれている燃料用のガスボンベに視線を向け、耳を近づけて何かの音を確認した。ゴパルが首をかしげて聞いた。
「ガス漏れですか? サビーナさん」
ガスボンベから耳を離したサビーナが素直にうなずいた。
「ネパールのガスボンベは信用できないからね。ここで爆発されちゃ困るでしょ」
ネパールでは、インドから輸入したガスを国内の会社がガスボンベに充填して販売している。そのガスボンベの品質基準は定められているのだが、往々にして守られていない。そのため、時々爆発事故が発生していた。
国民からの突き上げを食らった政府が、事故を起こしたガス充填会社を営業停止処分にするのは当然の流れだろう。
しかし今度は、ガス充填会社が政府へ批判を始めた。これではガスの消費に支障が出て、国内が混乱する事になるから営業停止処分を撤回しろとか何とか。
実際に爆発事故を起こしながらも、政府からのお咎めを受けずに済んだガス充填会社もある。そういった背景なので、サビーナがガスボンベに不信感を抱くのも当然だろう。
「ガスの値段にも色々と不満があるのよね。ポカラよりも首都の方が高いでしょ」
ゴパルが垂れ目を閉じて腕組みをしながら肯定的に首を振った。
「……ですね。インドから遠くなる程、値段が高くなりますよね」
今はインドからネパールのテライ地域まで、ガスと石油のパイプラインが引かれている。そのためネパールの会社がインドに入って、石油やガスを買って戻る必要は無くなった。その当時は国境での税関通過に手間がかかっていたので、それは解消されている。
現状では、最も安いガスや石油を買えるのがパイプライン沿いのテライ地域の町だ。パイプラインが届いていない首都では、運送費がかかるので高くなっている。
ゴパルがもう一口チーズケーキを食べようとしたが、もう全て試食に回されて無くなっていた。がっくりと肩を落とす。
「パイプラインも考え物ですよ、サビーナさん。燃料の代金不払いが起きると、すぐにインド側で元栓を閉められてしまいます。低温蔵をABCに建てた理由の一つでもありますね」
しょんぼりしているゴパルを見て、サビーナが少し呆れながら微笑んだ。
「真面目な事を言っている割には、表情が情けなくなってるわよ、ゴパル君。仕方がないな、もう一品作ってあげるわ」
次に作ったのは、スフレタイプの蒸したチーズケーキだった。
ちょうど最初に焼いたチーズケーキの型になるクッキーがあったので、それを使う事にしたようである。このクッキーでできた型枠の中に、カスタードクリームとメレンゲを混ぜたクリーム生地を注いでいく。
「カスタードクリームにはコーンスターチを加えてる。こんな感じかな」
あっという間にできあがってしまった。バットに湯を注いで、その上に型枠に注いだチーズケーキを乗せる。
「蒸し上げるから、こうするのよ。無ければ蒸し器を使っても構わないわよ」
これをオーブンに入れて百二十度の温度に設定した。ゴパルとレカが目をキラキラさせて見ているので、いたずらっぽく微笑むサビーナだ。
「蒸し焼きにする時間は一時間半ね。それまでにお腹を減らしておきなさい、ゴパル君とレカっち」
天を仰いで嘆くゴパルと、机に突っ伏すレカであった。
「まじかー」




