闘牛
闘牛は首都の北にあるヌワコット辺りで開催されていて、それなりに盛況だ。ゴパルも何度か見に行った事があるので、素直に提案に乗る事にしたようである。
「では、そちらへ行ってみましょうか」
闘牛の会場は、さすがにクリケット競技場の中には設けられないために外にあった。外の屋台はポカラホテル協会の承諾を受けていないので、バスパークや空港の駐車場にあるようなものだった。サビーナがジト目になってクリケット競技場に戻る。
「祭りの屋台じゃないわね。いったん戻って食べ歩きしてから闘牛を見ましょ」
ゴパルもすぐに同意した。
「普通の屋台は、バス旅で見慣れていますからね。大賛成です」
二人の後ろについていきながらカルパナも微笑んだ。
「チソやチヤばかりですものね。アイスクリームもありますけど、レカちゃんの屋台の方が美味しいですし」
結局、クリケット競技場内の屋台を巡って食べ歩きを楽しむゴパル達三人であった。ただ、顔見知りばかりなので、合掌して挨拶をする反復運動を続ける事になったが。
ゴパルもすっかり顔なじみになっていたのだが、『牛糞先生』という名前が定着しているのには閉口したようである。
そんなゴパルにサビーナがヤム芋の香辛料煮込みを手渡した。
「気にしない気にしない。雨期になる頃には忘れ去られているわよ。ホテル協会の屋台では結局何も食べていなかったでしょ。とりあえずコレで小腹をなぐさめておきなさい」
礼を述べるゴパルだ。
「ありがとうございます。実はお腹が減っていたので助かります」
サビーナはサツマイモの香辛料煮込みを手にしていた。
「ヤム芋はこの時期よく食べるのよね。あたしはコレ。でも芋はお腹にたまるから、調子に乗ってパクパク食べ過ぎないようにしなさいよ」
ゴパルが自身の腹を見下ろしてから両目を閉じた。
「ハワス、サビーナさん」
そこへカルパナがニコニコしながら戻ってきた。手には紙袋を三つ持っている。それをサビーナとゴパルに手渡して、サビーナからサツマイモの皿を受け取った。
「お菓子もありましたので買ってきました。糖蜜とゴマのお菓子ですね。このお祭りには欠かせません」
サビーナが早速一口食べて満足そうに微笑んだ。
「あの店の味か。こうなるとチソかチヤが欲しくなるわね」
さんざん食べ歩きをしてから闘牛場へ行くと、最後の試合になっていた。ゴパルがチソを飲みながら冷や汗をかく。
「うわ。もう最後の試合ですよ」
サビーナとカルパナもポップコーンを食べながら苦笑している。
「調子に乗って食べ歩きし過ぎたわね」
「レカちゃんからも、準備が整ったと知らせが入りました。ちょっとだけ見てから戻りましょうか」
闘牛場は一本のロープで囲われているだけで柵は無い。
どちらの雄牛が勝つのか賭ける事は禁止されている……のだが、こっそりやっている人がチラホラと居るようだ。警備として、地元警察と軍が人を配置している。
雄牛は基本的に大きな農家で飼育されている。そのため、闘牛を戦わせるのも地元農家だ。なので、農家の地元連中が団結しての地区対抗戦のような様相を見せている。当然ながらカルパナとサビーナの地区や集落からも何組かが参加していた。
カルパナとサビーナが決勝戦の雄牛と農家を見て、ほっとしている。それを横で見たゴパルが勝手に納得した。
(ああそうか。パメやチャパコットやナウダンダ、それにサビーナさんの住むマレパタン地区からも大勢参加しているのか。どちらか一方を応援するわけにはいかないよね)
幸い決勝戦に進出したのは、別の地区の農家だった。これでカルパナとサビーナも心置きなく闘牛を観戦できるだろう。
雄牛はインド系なので背中に大きなコブがある。色は白ではなくて褐色や黒色ばかりのようだ。立派な角も生えている。
ゴパルがチソを飲み終えて目を輝かせた。
「あっ。始まりましたよ」
乾期なので地面が乾燥していて、土煙が牛の動きによって巻きあがった。農家が飼育している牛なので、闘牛としての訓練は行っていない。そのため、決着はすぐについてしまった。
黒い雄牛が尻を向けて逃げ出していき、農家が慌てて追いかけていった。かなり牧歌的な闘牛である。
勝って喜んでいる農家と、その友人達を見ながらゴパルが聞いてみた。
「優勝賞金とかあるんですか?」
カルパナとサビーナが視線を交わしてから、同じように口元を緩めた。カルパナが穏やかな口調で答えた。
「食事会くらいはできますよ。小さな優勝盾と記念写真も贈られます。今回の闘牛大会のダイジェスト映像も、後でホテル協会のサイトに載るはずですよ」
そういえば、過去のイベント欄にそのようなタイトルがあったっけ……と今になって思い出すゴパルであった。ゴパルがせっせと見ているのは料理の動画ばかりなので、他の動画に注意を払っていなかったらしい。
闘牛の会場から人が去り始めたので、サビーナがゴパルとカルパナに声をかけた。
「さて、あたし達もレカっちの屋台へ戻るわよ」




