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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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三元中継やってみた その一

 そんな雑談をしていると、ラビ助手が画面に顔を見せた。

「お待たせしました。準天頂衛星が上空にやってきましたので、テレビ電話がつながりましたよ」

 すぐに、スマホ画面の隅にビカスの顔が映し出された。結構緊張している様子だ。そんな彼に構わずに、ゴビンダ教授がそそくさと退散した。

「では、後はラビ助手に任せるとしよう。ツクチェのリンゴ栽培が良くなる事を祈っているよ。では」

 代わりにラビ助手の顔が画面に映し出された。少しジト目気味になっているようだが。

「それでは始めましょうか」


 結局、通信回線はそれほど速くならなかったようだ。リアルタイムでの通話は無理で、映像は数秒間隔で更新されるコマ送り状態であった。

 音声もセリフを全て言ってから、それを圧縮してファイル化して送信するという方法だ。文字の代わりに音声データファイルをやり取りするチャットである。

 ラビ助手が申し訳無さそうな表情の静止画像でゴパルとカルパナ、それにビカスに謝った。

「すいません、皆さん。予想以上にツクチェの電波状況が悪くてこうなりました」

 ラビ助手もゴビンダ教授も専門は育種学だ。通信工学ではない。

(ポカラ工業大学のスルヤ教授やディーパクさんに頼めば良かったかな。失敗失敗……)


 その音声ファイルを再生して聞いたゴパルが、穏やかな笑みを浮かべて答えた。

「それでもこうしてツクチェとポカラと首都の三元中継ができましたから、良かったですよ。ビカスさんも問題なく聞こえていますか?」

 緊張した表情のままの静止画像ビカスが更新された。まだ緊張していて、手ぬぐいで額の汗を拭いている最中の静止画像になった。

「は、はい。大丈夫ですラー。子供らが難しい操作をしてくれてますラー」

 よく見ると、画面の隅に人影が二つ見える。ゴパルが同情した。

(つい最近になってスマホを使うようになって、いきなりテレビ電話だからなあ……緊張もするよね)


 通話の内容は、カルパナが参加した事でリンゴ栽培のノウハウに重点が置かれる事になった。ゴパルもラビ助手も専業農家ではなく、ただの研究者だ。農家のビカスの興味を引くようなネタの数には限りがある。

(カルパナさんが居て良かったな。私とラビさんだけだと行き詰ってたよ。ははは……)

 この時期はリンゴの剪定せんていと苗木の植えつけがあるので、話題もそれ関連になったようだ。もちろん、ゴパルとラビ助手には専門外の話題である。


「リンゴの苗木の定植ですが、リンゴの木を伐採した園では忌地いやちという現象が起きやすくなります。連作障害のリンゴ版ですね。ですので、できればリンゴを植えた事がない土地に優先して定植した方が良いですよ」

 カルパナがビカスの質問に答える形で次々に指摘していく。リンゴの苗木を定植する場所についても、土の深さが五十センチ以上あるべきだと答えた。

「リンゴは根が深く伸びます。ですのでリンゴの苗木を植える前に、トマトやトウモロコシといった作物を植えておくと良いですね。土を深くまで耕してくれます」

 ビカスはそのような作付けをしていなかったようだ。静止画像が不安そうな表情に更新された。盛んに汗をタオルで拭いているのか、ややボサボサ気味だった眉が整ってきている。

「苗木を定植した後で、園の土壌改良ってできるラ?」

 カルパナがゴパルの隣で残念そうな表情を浮かべた。

「難しいですね。土壌改良は定植前に済ませておくべきです。今は矮性台木を使った苗木ですから、余計に障害が起こりやすいと聞きます。とりあえず、石灰質肥料と堆肥を施肥して徐々に土壌改良をしていくしかないでしょう」


 ここでカルパナがゴパルに視線を向けた。置物状態だったのだが我に返るゴパルだ。少々慌て気味になりながらも、ゴパルが説明を始める。

「ええと……堆肥ですが、KL生ゴミボカシを使ってみてはどうでしょうか。土壌分析をしていないので正確ではないのですが、年間で一ロパニ当たり五十から二百五十キロの間が目安だと思います。草がたくさん生えている場所ほど少なくて済みますよ」

 ビカスが苦笑した。

「ずいぶんと幅があるラー。でもまあ年間だから、そんなもんかな」

 少し反省したゴパルが話を続けた。

「生ゴミボカシには塩分が含まれていますから、雨の少ないツクチェでは用心した方が良いですね。年間百キロを基準にして、生育を見ながら追肥するという形が良いかと思いますよ」

 それには異論のないビカスだ。隣のカルパナも同意している。


 少し調子に乗ったゴパルが、もう一つ提案した。

「畑に生えている雑草を刈り取って、リンゴの苗木や成木の周りに敷き詰めても良いと思います。ついでに上から生ゴミボカシを少量ふりかけて、十倍に希釈したKL培養液をかけておけば分解も早まるはずです」

 しかし、ビカスの反応は思わしくないものだった。

「ゴパル先生。ツクチェには雑草なんか生えてないラー。あっても全部牛や羊の餌になるラー」

 そういえば、ジョムソンやツクチェは雨が降らない地域だった……と思い出すゴパルであった。代わりにカルパナがスマホ画面のビカスに提案した。

「牧草の種をリンゴ園内に蒔いてはどうですか? ツクチェは風が強いと聞きます。牧草でリンゴ園を覆っておくのは良い方法だと思いますよ」

 せっかく肥料をまいても、風が強いと吹き飛ばされてしまう。牧草を繁らせておく事でその飛散を防ぐという案だ。ビカスも了解した。

「分かったラー。ジョムソンで牛の放牧が増えてきてるんラよ。そこから牧草の種を買えるラー」

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