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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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シイタケの植菌作業

 ゴパルが息を切らして雑木林の端へ到着した時には、もうラメシュが作業の準備を整えていた。軽いジト目になって出迎えるラメシュだ。

「ゴパルさん……来るのが遅いですよ。手伝うって約束じゃないですか」

 ゴパルが頭をかいて謝った。

「ごめんごめん。油断してチヤを飲んでしまった。さて、頑張って手伝いますよ」


 ラメシュが大きなリュックサックの中から弾丸型のシイタケの種菌を取り出した。

「では、始めましょうか。シイタケの種菌を植えつける作業です」

 種菌は弾丸型で直径が一センチ、長さが二センチほどだ。底部にはロウが塗られている。参加者にそれを見せながら説明を始めた。

「オガクズにシイタケの菌糸を張らせています。保存ができませんので、できるだけすぐに使い切ってください。冷蔵庫に入れても一週間も保てません」


 この種菌は日本の種菌会社が製造したものという事だった。ネパールでは地元会社製の種菌がいくつか販売されているのだが、雑菌に負けてしまってシイタケが実らなかったりと問題点が多い。種菌自体の品質に不安があるようだ。

「今回は低中温性の種菌を使います。最低気温が八度以下になるとシイタケが実るタイプです」

 ラメシュが弾丸型のシイタケ種菌を空にかざして、菌糸の状態を確認する。

「シイタケの場合、種菌という名前も使いますが形成菌という呼び方が一般的ですね。でも混乱しやすいので、シイタケの種菌と呼びましょうか」


 続いてラメシュがほだ木を手に取って、電動ドリルを当てた。

「ほだ木に穴を開けて、その中へシイタケの種菌を押し込んでいきます。ほだ木の直径がまちまちですが、平均して一本につき穴を四十六個くらい開ける計算でいきましょう」

 ほだ木の端から五センチ離して穴を開ける。穴の直径はシイタケの種菌と同じく一センチで、深さは二センチ半だ。シイタケの種菌を押し込んだ際に、少しだけ穴奥に隙間が残る程度である。

 穴の間隔は十五センチで一列に開けていく。列間は四センチほどで、穴は互いにずらしておく。いわゆる千鳥状態だ。ラメシュがシイタケの種菌を穴の中へ押し込んだ。

「押し込む際の注意としては、ロウを塗った部分が樹皮と同じ高さになるようにする事ですね」

 話しながらロウの部分を指で叩く。

「樹皮から飛び出ていると、シイタケの種菌が崩れてしまいます。押し込み過ぎると窪みができて、そこに水やゴミが溜まって腐る原因になります」 

 電動ドリルをスバシュに手渡したラメシュがニッコリと笑った。

「では、やってみましょうか」 


挿絵(By みてみん)


 電動ドリルは数個持ち込んでいたようで、穴あけ作業が順調に進められた。穴あけ係は順番に交代して、シイタケの種菌を植えこむ係に切り替わっていく。

 その様子を眺めながらゴパルが肩をすくめて力なく笑った。

「ははは……私が来た意味が無かったような気がするなあ」

 実際、ゴパルは作業を見ているだけである。ラメシュも一通り指導をした後は暇になったようだ。ゴパルの隣へやって来た。

「今回持ってきた形成菌は五千個です。植菌したほだ木のうち八十本をここナウダンダに置いて、残り二十本ちょっとをセヌワへ運び上げましょうか」

 首都から運んできたほだ木は百十本という事だったので、ほぼ使い切る事になる。

「セヌワまで私とカルナさん、ニッキさんとアルジュンさんの四人で運び上げれば、一人当たり五本ですね。強力隊を呼ばずに済みそうです」


 ゴパルが首をかしげた。

「ん? 私も低温蔵へ戻るよ。一人当たり四本じゃないのかい?」

 ラメシュがキョトンとした顔になって、それからジト目になった。

「……ゴパルさん。またチャットを見るのをサボっていましたね。ゴパルさんはこの後、首都に戻る事になっていますよ」

「え?」

 慌ててゴパルがポケットからスマホを取り出してチャットを確認した。その表情があっという間に曇っていく。

「げ……本当だ。バクタプール酒造でワインをサンプル採取しろって、クシュ教授からの命令が来てた。本人はまたバングラデシュへ遊びに行くのか。大学に残っているスルヤ君には法事が入ったのね」

 スルヤの親戚が病気で危篤状態らしく、火葬の準備に追われているらしい。川のほとりにある火葬場を予約して、パンディット(ヒンズー教の司祭)の都合をおさえ、薪と花や布等を用意しないといけない。


 ラメシュが冷静な口調でゴパルに告げた。メガネが光っていて目元がよく見えない。

「私はこの後、セヌワでほだ木の設置作業があります。その後でABCへ上り、低温蔵のダナと交代します。ですので、今日の段階で暇なのはゴパルさんだけなんですよ。諦めてください」

 がっくりと肩を落とすゴパルだ。

「着替えをあまり持ってきていないんだよね……まあいいか。それじゃあ、ラビン協会長さんに頼んで航空券を頼んでもらうかな」


 ゴパルが協会長にチャットで首都行きの航空券を頼んでいる間に、シイタケの種菌の植えつけ作業が終了した。

 セヌワ向けに二十本余りを選んで、小型トラックの荷台に運んでいくカルナとニッキ、それにアルジュンだ。ディワシュも手伝っている。荷台から落ちないように厳重に縛りつけているようだ。

 ナウダンダには八十本が残された。雑木林の中に薪を二列に並べ、その上にほだ木を横積みしていく。積み上げる高さは六十センチほどだ。ほだ木は地面に接触しないようにして、保湿と保温のために遮光ネットを被せてある。

 ラメシュがほだ木の状態を最終確認してから、参加者達に告げた。

「毎週一回か二回、ほだ木が湿る程度に水をかけてください。ナウダンダやセヌワでは問題ありませんが、もし他の場所でシイタケ栽培をするのでしたら、中の気温が二十五度以上にならないように注意してくださいね」

 カルパナがスマホでの撮影を終了したのを見てから、ラメシュが参加者達に合掌した。

「以上で終わります。力仕事とか大変でしたね、ありがとうございました」

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