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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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米粉パンつくり続報

 この時間はパン工房が閉まっていたのだが、明かりがついている。

 その門の前では、サビーナが仁王立ちして待っていた。腕組みをしてジト目になっている。服装は小ぎれいなサルワールカミーズにジャケット姿だ。

「おそーい! あたしはこの後でディナー客の予約が入ってるから、あんまり時間が無いのよっ」

 謝るカルパナとレカ、それにディーパク助手であった。ラメシュがキョロキョロしているので、サビーナが腕組みを解いてニヤリと笑った。

「ダナ君とスルヤ君は来ていないわよ。皿や鍋洗いで大忙しなのよ。でも、洗い場の才能はそれほど持ってなさそうね」

 ラメシュが軽く肩をすくめて力なく笑った。

「でしょうね……皿やグラスを割って迷惑をかけないかどうか心配です」

 サビーナが機嫌を直したようで、ニコニコしながらパン工房の扉を開けた。

「割ったらクシュ教授に請求するから安心しなさい。それじゃあ、早速始めるわよ。中へ入った入った」


 パン工房の厨房は、さすがに商業生産をしているだけあって広かった。石窯も二つ作られていて、既にススで黒く染まっている。その石窯の横に新しい機械が設置されていた。それを素手でパンパン叩きながら、サビーナがディーパク助手を見る。

「これよね? 米粉を細かくすり潰す臼って」

 ディーパク助手が機械に歩み寄って設置状況を確認した。特に問題は無さそうだ。

「はい。米粒を用途別の米粉にする臼ですね。米粉は加熱したり過剰な力ですり潰すと劣化してしまいますので、その加減を調整するのに手間がかかりました」


 ディーパク助手の説明によると、米粉の粒構造に傷や欠損が生じると良くないという事だった。

「もちろん、傷を完全に抑える事は無理ですので、生じる割合を減らす方向ですね」

 米粉の粒の大きさは、パン用で百分の八ミリ、ケーキ用では百分の二ミリにしたらしい。粒の形も丸くなるように臼を調整したと話してくれた。

「粒が丸くないと吸水が均一ではなくなります。実験した所、全体に水分過多な生地になってしまいました。その反省から丸い粒にしています」


 そこへ、パン工房長が厨房へ顔を出した。彼も今は普段着だ。

 手には袋を持っていて、その中から焼きあがったばかりの田舎パンを取り出した。厨房内にパンの香りが漂っていく。

「遅くなって済まない。ディーパク先生が作ってくれた米粉で田舎パンを焼いてみた。ちょいと試食してみてくれ」

 厨房内の石窯は二つとも火を落としていたので、彼の知り合いの店で焼いてきたのだろう。パン工房長が早速パン切りナイフを使って田舎パンを切り分け、全員に手渡していく。

 ラメシュも一切れ受け取って、そのままかじりついた。バリバリとパンの外皮が砕ける音がする。ラメシュのメガネがキラリと光った。

「予想以上に美味しいですね。米の風味はしないので、本当に小麦のパンのようです」

 ディーパク助手も同じ感想を抱いた様子だ。ラメシュの言葉に大きくうなずいた。

「そうですね。これは私も予想していませんでした。てっきり、米の麺みたいな風味になるのかなと想像していましたが……さすがですね」

 パン工房長が照れ笑いを浮かべた。

「汎用小麦粉じゃないので、何度か失敗しましたがね」


 彼によると、やはり米粉の吸水スピードが速かったらしい。そのままでは生地が水分過剰になって、焼き上がりがコンガリとならなくなる。そのため、バターや塩を含む材料を全て一度に入れてよく混ぜる事にしたそうだ。

「そうしたら、米粉の吸水が減りましてね。一次発酵の工程も省略して、発酵時間を短縮させました。ですが、発酵そのものは十分にさせていますよ」

 発酵時間を短縮させたのは、米粉の吸水をさらに抑えるためという事だった。


 サビーナが大真面目な表情で田舎パンを手でちぎって食べている。

「そうね。パンの気泡がそろっているわね。大きすぎず小さすぎず偏らず。確認するけれど、これは本当に米粉だけで焼いているのよね? 汎用小麦粉や添加物は加えていないのよね?」

 パン工房長がドヤ顔でニッカリと笑った。

「左様ですぜ、サビーナ総料理長。材料は米粉と塩とバターだけです。これをパン用酵母と天然酵母を使って発酵させて石窯で焼いたんで、正真正銘の田舎パンですね」

 サビーナがガッツポーズを決めて、パン工房長にハイタッチした。

「偉い! よくやってくれたわっ。ラビン協会長さんも言ってたけれど、小麦アレルギーじゃなくても小麦製品を避ける人が多いのよ。これでメニューの幅が大きくなったわ。ありがとうね」

 照れているパン工房長だ。サビーナが続けてディーパク助手にも礼を述べた。

「新型の臼をありがとう、ディーパク先生。米粉パンとケーキが、これからポカラの特産品になるわよ」

 ディーパク助手がパンを食べ終えてから、少しドヤ顔になった。

「実はその臼、粒径をさらに調節できるんですよ。最大で十分の二ミリまで大きくできます。そのサイズの粒でしたら、米の麺や団子づくりに向いていると思いますよ」

 米の麺や団子の場合は、デンプンを加熱してアルファ化させてから麺や団子に加工する。そのため、粒が大きい方が品質が安定しやすくなるのだ。

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