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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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リテパニ酪農の屋台

 続いてカルパナとラメシュが向かったのは、ダムサイドに近い場所に出店していたリテパニ酪農の屋台だった。疲れ果てたレカがヨロヨロしながら出迎えてくれた。屋台にはレカの他に数名の作業員がテキパキと働いていて、レカの父や兄の姿は見当たらなかった。

「しぬ~。新年祭なんか~大嫌いだあ~人が多すぎる~」

 そのままゾンビのような動きでカルパナに抱きつく。カルパナがレカのボサボサ状態の髪を撫でて整えながら、困ったような笑顔を浮かべた。

「新年早々に死んでどうすんのよ、レカちゃん」

 レカは人と会うのが苦手なので、屋台の仕事は裏方に徹しているようだったのだが。それでも置物状態であったのは変わらなかったようだ。


 とりあえず、改めてラメシュを紹介するカルパナだ。レカもヨロヨロしながらも合掌して挨拶を交わす。ラメシュが屋台の商品を見て感心した。

「凄いですね。アイスクリームやヨーグルトは分かりますが、イチゴのショートケーキまで作っているんですね。あっ、コレはモッツァレラチーズですね。マルゲリータピザ美味しかったですよ」

 レカがカルパナから身を離してニンマリと笑った。ちょっと元気になったようだ。とりあえず、スマホ盾を装備した。

「でしょー。KLと光合成細菌を使ってるおかげでー、牛舎の悪臭が減ったのよー。牛も水牛も穏やかになってきてるからー、生乳の質と量も良くなってるー」

 照れるラメシュだ。仕草がゴパルと似ているのでクスクス笑うカルパナである。


 レカが屋台の商品の中から一つ、大きめの蒸しギョウザのような巾着形をしたモノを選んだ。それを使い捨ての紙皿に乗せてラメシュに手渡す。

「プッラータだよー。生クリームと色んなチーズをモッツァレラチーズで包んで巾着にしたヤツー。慎重に食べないとー、中の生クリームが飛び出るから注意ー」

 レカの指導通りに慎重に食べてみるラメシュだ。その彼が驚きの表情に変わった。危うく口から生クリームを噴き出しかけたので慌てている。

「うわっとっとと……モモかなと思いましたが、まるで別物ですね。パニールや牛乳を固めたお菓子に似てるかな? 甘さ控えめですが美味しいですよ」

 ネパールやインドの菓子は激甘なモノが多いので、それらと比較したのだろう。ただ、最近では甘さ控えめの菓子も多くなってきている。

 カルパナも慎重にプッラータを食べながら、穏やかに微笑んだ。

「私もこのお菓子が好きですよ。日持ちが全くしないので、作り置きできないのが残念です」

 レカは今まで散々食べていたようで、ラメシュとカルパナの幸せそうな表情を眺めてニマニマ微笑んでいる。カルパナの感想を聞いてから、屋台に備えつけられている液晶テレビを指さした。


 その画面では、レカの父と兄、それにもう一人の作業員の三人組によるモッツァレラチーズの製造工程を紹介していた。

「モッツァレラチーズ自体が日持ちしないー。冷蔵庫に入れてもダメだしー」

 画面に映ったレカの父のクリシュナ社長の説明によると、モッツァレラチーズは十二度以下で保存すると風味が弱まってしまうらしい。消費期限も製造日の翌日までが限界だそうだ。

 映像では水牛乳のモッツァレラチーズを作っている様子が映っている。液温が八十度もあるのでヤケドを気にしながらの大変な作業だとナレーションと英語字幕が入った。声はレカの兄のラジェシュのようだ。水牛乳は一日に二回搾るのだが、モッツァレラチーズの製造は早朝に行うという事だった。

 画面を見ながらプッラータを食べ終えたラメシュが感心している。

「予想以上に重労働で危険な作業なのですね。感謝して食べます」


 そこへ、ディーパク助手が普段着でふらりと屋台にやって来た。

「うちの研究室で、薄手の耐熱手袋を試作中ですよ。それが出来ればヤケドの心配も不要になります」

 ディーパク助手がレカとカルパナに合掌して挨拶をし、続いてラメシュに自己紹介をした。

「初めましてかな? ポカラ工業大学の工学第一研究室でスルヤ教授の助手をしているディーパク・アチャリャです。ゴパル先生の研究室の方ですよね?」

 ラメシュが手に持っていた紙皿をゴミ箱に捨てて、合掌して挨拶を返した。

「はい。初めまして、ラメシュ・ナガルトキです。バクタプール大学農学部の微生物学研究室でクシュ教授の下で博士課程をしています」


 そして、申し訳無さそうな表情になった。

「スーパー南京虫の駆除では、うちのゴパル助手が迷惑をかけてしまったそうで、すいません」

 レカが当時の騒動を思い出したのか、スマホ盾の奥で膨れ面になった。

「迷惑をかけたのは、あたしのクソ兄だー。ゴパルせんせーは被害者だぞ」

 カルパナも思い出したのか、クスクス笑い始めている。

「見事な飛び蹴りだったよ、レカちゃん」

 穏やかに応対したディーパク助手が、スマホを取り出して時刻を確認した。

「そろそろ予定の時間になりますね。仕事から抜け出せそうですか? レカさん」

 レカが明るい笑顔に切り替わった。スマホ盾の奥でニコニコしながら答える。

「もっちろーん。パン工房へ行きましょー」

 小首をかしげたラメシュにカルパナが説明してくれた。

「これからパン工房の厨房を借りて、米粉パンの試作をするんですよ。ゴパル先生が提供してくれた酵母も使いますので、一緒に行きませんか? ラメシュ先生」

 そう言われてしまうと断る理由が無くなるラメシュであった。軽く首を引っ込めてうなずく。

「分かりました。今晩は暇ですし、見てみましょう」

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