パメ
翌日ジヌーを出て、昼過ぎにポカラへ到着したゴパルだ。そのままダムサイドにあるルネサンスホテルに向かいチェックインする。
汗を流してからロビーに出ると、しばらくしてカルパナがバイクで迎えに来てくれた。ゴパルが事前に知らせていたようである。
「すいません、ゴパル先生。この所天気が良くて、簡易ハウス内が暖かくなりまして……ヒラタケとオイスターマッシュルームとが一斉に収穫期を迎えてしまいました」
ゴパルが部屋の鍵をホテルの受付に預けて、カルパナからヘルメットを受け取った。
「キノコは気まぐれですからね。人間が振り回されるのは、よく起きる事ですよ。気にしないでください」
パメに到着すると、そのまま段々畑に向かった。そこに新しい竹製の簡易ハウスが二つできているのが見えた。どちらにも刈り草が被せられているのだが、乾期になったので量は少なめだ。
カルパナが手前のハウスを指さした。
「あの中で自家製種菌を使ったヒラタケとオイスターマッシュルームを栽培しています。隣のハウスはカボチャの貯蔵用ですね。種苗店が増築中でして、屋上でカボチャを干せませんのでここに持ってきました」
貯蔵用のカボチャは一抱えほどもある大きさで、冬の日差しに当てて甘くさせる。お菓子の材料にする場合もあるのだが、基本的にはそのまま香辛料煮込みにして食べる。結構甘い。
ゴパルはカボチャのその料理が好きなのだが、ここは仕事に集中する事にしたようだ。視線をキノコのハウスに戻した。
「天気が良い日が続いていますからね。キノコが育って、カボチャも甘くなりますよね」
キノコの簡易ハウスの中へ入ったゴパルが、スマホのカメラで撮影を始めた。
ハウスの中には、太めの紐で菌床が吊るされている。前回と同じように一本の紐に二、三個の菌床が縛りつけられていた。菌床は白い菌糸で隙間なく覆われていて、あらゆる場所からキノコが生えている。
床には青シートが敷かれていて、その上に赤レンガが並べられている。その赤レンガの上にも菌床が整然と置かれてあった。菌床は青シートには触れていないので、これも全ての場所からヒラタケとオイスターマッシュルームとが生えていた。
菌床には手を触れずに、スマホカメラを近づけて撮影する。ゴパルが満足そうに垂れ目を細めた。
「良い出来ですね。では、軸が真っすぐなキノコを選んで採取しましょうか。PDA……ジャガイモ培地で組織培養するために必要な数だけ採っておきましょう」
カルパナが嬉しそうに答えた。
「はい、ゴパル先生。ジャガイモ培地作りも成功率が九割になってきました。スバシュさんに任せても心配ありませんよ」
ゴパルがキノコを採取しながら感心して聞いている。キノコは根元から引き抜くのが基本だ。切り取って収穫すると、切り株部分から雑菌が繁殖する恐れがある。
「凄いですね。黒字経営の商業生産ができると思いますよ」
カルパナが照れながらキノコをいくつか採取した。
「ゴパル先生やラメシュ先生の指導通りにしただけですよ。市販の種菌と混ぜて菌床を仕込んでいますが、今後もそれを続けるのですよね?」
ゴパルがキノコを採集し終えてうなずいた。ちょうど両手で持つほどの量である。
「その方が菌床が安定します。それに、首都のキノコ種苗会社も利益が出ますしね。微生物学研究室が会社に文句を言われる心配もなくなりますので、種菌を混ぜて使う事を続けてください」
カルパナもキノコをゴパルと同じほど採集して明るくうなずいた。
「分かりました、そうしますね。では、このキノコを種苗店の倉庫に居るスバシュさんに渡しましょう」
組織培養に使う分量なので、それほど多くはない。
「サビちゃんがピザ屋でキノコのクリームパスタを作ってくれる予定です。そろそろ時間なので、ピザ屋で向かいましょうか」




