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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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排水の液肥

 スマホのバッテリー残量が危うくなっていたのだが、何とか撮影を終えてほっとしているゴパルだ。

(液肥づくりや、光合成細菌熟成の現場は撮影できそうにもないなあ。次回の機会に回す事にしよう)

 代わりにメモ帳をポケットから取り出して、クリシュナ社長の話を記し始めた。ネパール語には速記法は無いのだが、かなり手馴れたペンさばきだ。

 酪農場から出るパーラー排水は、基本的に先程見てきた棚田の排水処理システムで浄化される。一方で、牛乳や水牛乳の廃棄乳は液肥として再利用されていた。


 ペンを走らせながらゴパルが首をかしげる。

「あれ? 排水も液肥に使っていませんでしたか?」

 クリシュナ社長が首を振った。

「排水の液肥化は、後日また考える事にしました。今は中断しています。本格的に商品化すると、成分分析や毒性検査が必要になってきますので」

 確かにその通りなので、素直に納得するゴパルだ。クリシュナ社長が口元を緩めた。

「発酵させた廃棄乳でしたら、その点で簡単です。生乳の成分分析データを流用すれば良いだけですし。毒性試験も生乳の検査キットをそのまま使えます。悪臭もありませんので農家も使いやすいですからね」


 ラジェシュが補足説明してくれたのだが、チーズやヨーグルトに使う牛乳や水牛乳は、当日搾ったモノだけを使っているらしい。

 周辺の酪農家からも牛乳や水牛乳を受け入れているのだが、農家によっては古くなったモノを持ち込む人が居るという話だった。

「突き返すわけにもいかないので、受け取ってこうして液肥にするようにしたんですよ。それに牛乳公社の生乳回収トラックも来ない時がありますしね」

 リテパニ酪農では、基本的に自社で搾ったばかりの生乳を低温殺菌して瓶詰めしている。牛乳や水牛乳、それに時期に入れば山羊乳、他に低脂肪乳や脱脂粉乳、無塩バター、澄ましバターのギー等も製造販売している。一方で、レカナート市の牛乳公社にも生乳を卸しているという事だった。

 周辺農家から買い取っている生乳は、牛乳用ではなくてチーズやヨーグルト、ギーといった加工品向けだと言う。


 その発酵槽に案内されたゴパルが、タンク内を見下ろして臭いをかいだ。廃棄乳なので液面は薄っすらと黄色い白色だ。シュワシュワと小さな泡が立ち上っているのが見える。

「あ、なるほど。アルコール発酵が混じっていますね。ヨーグルトっぽい牛乳酒という感じかな。液肥としては良いと思いますよ。ですが、腐りやすいので早めに使い切った方が良いですね」

 クリシュナ社長がラジェシュと顔を見交わしてから、素直にうなずいた。

「分かりました、ゴパル先生。ヨーグルトの消費期限に準じて売り切るようにしますよ」


 ラジェシュが好奇心の光を両目に宿しながら、ゴパルに聞いてきた。

「ゴパル先生。牛乳酒って事は、コレって飲めますかね?」

 ゴパルが両目を閉じて頭をかいた。

「止めておいた方が良いと思いますよ。廃棄乳が原料ですし。長期保存をする場合は、アルコールを添加すると良いでしょうね。度数を五十度くらいにまで上げれば、少々の事では腐らなくなります」

 クリシュナ社長が口元を緩めて肩をすくめた。

「アルコールのコストがかかって、それでは売れなくなりますよ。酒造所の登録もしないといけなくなりますし」


 カルパナが一歩引いて見ていたが、ゴパル達の話が終わった頃合いを見計らって近寄ってきた。手に持っているスマホで、タンク内の様子を撮影する。

 ゴパルから牛乳酒と聞いても、それほどアルコール臭が感じられないので小首をかしげているが。この牛乳酒のアルコール度数は五%もない。

「ゴパル先生、短時間だけですが撮影しておきますね。後で、動画ファイルを送ります」

 感謝するゴパルだ。

「ありがとうございます。これでクシュ教授に怒られずに済みます」


 その後、光合成細菌を箱で培養している、竹製の簡易ハウスにも行って状態を確認するゴパルであった。こちらも順調そうなので、ほっとしている。

 緑色の光を出している蛍光灯をいったん消してから、培養されている光合成細菌の入った白いタンクを一つずつ開けた。

 ゴパルが全てのタンクの臭いと色を確認していたが、あるタンクで立ち止まった。垂れ目をキラキラ輝かせてクリシュナ社長に振り返る。し尿臭が漂っているので、その系統の趣味がある人にしか見えない。

「あ、このタンクは良い発酵状態ですね。し尿臭がほぼ無くて、香ばしい果実の臭いがしています。色も上々ですね」

 ゴパルがニコニコ笑顔になって、タンクを指さした。

「コレは使わずに取っておいて、次回から仕込む光合成細菌に種菌として少量だけ混ぜて使ってください。菌の現地化が進むはずですよ」


 クリシュナ社長とラジェシュ、それにカルパナも臭いをかいで理解できたようだ。特にカルパナが驚いている。

「本当に違いますね。以前かいだ種菌とも少し違います。これが本来の臭いですか……」

 メモを取り終えたゴパルが、ポケットにペンと一緒にメモ帳を突っ込んだ。今は学者モードになっているようで、口調が淡々としている。

「この菌種は紫外線にもある程度耐えます。赤くなってから紫外線ランプを照射して、雑菌だけを殺菌する事もできますよ」

 口調がさらに淡々としてきた。

「でも、照射し続けると光合成細菌も最終的に死んでしまいますので、短時間だけにしてみてください。観察終了ですね。皆さんありがとうございました」

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