リテパニ酪農
バイクを走らせてリテパニ酪農に到着したのだが、駐車場で待っていたのはレカだけだった。先週見た時よりも、さらにヘロヘロに疲れているようだ。
サルワールカミーズもヨレヨレで、当然のようにストールを肩にかけていない。前開きの薄手のセーターを着ているのだが、これも毛玉だらけだ。サンダルも左右別々の種類である。
「いらっしゃ~い……」
さすがに心配するカルパナとゴパルだ。
カルパナがバイクをとりあえず駐車場の隅にとめてから、ヘルメットを手に下げたままでレカの肩を支えた。ゴパルもレカの背中を支える事にする。
「過労気味ですね、レカさん。今日は私達に関わらずにこのまま眠ってください」
ゴパルが心配してレカに告げて、カルパナの顔を見た。カルパナもうなずく。
「そうだよ、レカちゃん。寝てないでしょ」
レカが力なく笑って、とりあえずスマホ盾をゴパルに向けた。
「今やってるオンラインゲームでね~三日間連続レイドってのやってるの~。中ボスまで倒したけど~その後で雑魚敵にやられちゃって~ぐぎゃ……」
がっくりと肩を落とすレカだ。
コメントに困っているゴパルとカルパナに、レカが再び顔を上げてサムズアップした。親指の先がゴパルの顔に当たりそうになったので、ゴパルが危うい所で回避する。
「仮想通貨はたんまり稼いだから大丈夫うー。バカ兄と父さんは、もうちょっと後で来るってー。それまでここで待つのも暇だし、紅茶園でも行こー」
結局、紅茶園に到着するなり爆睡してしまったレカであった。仕方がないので、彼女を作業員達が持ってきた青シートの上に寝かせる。
カルパナが苦笑している作業員に謝った。
「すいません。ここってあなた達の休憩場所ですよね。お弁当箱や水筒の邪魔にならないようにしますから、レカちゃんをここで休ませてください」
作業員が首を気楽に振りながらも笑顔で答えた。
「いつもの事ですから構いませんよ、カルパナ様。せっかくですから、私達が今やっている作業を見ていきますか?」
カルパナとゴパルが笑顔で即答した。
「はい、お願いします」
作業しているのは紅茶園の外だった。新たに開墾した土地に茶の苗を植えている。
作業員達が全員、手を休めてカルパナとゴパルに合掌して挨拶をした。恐縮する二人だ。カルパナが合掌して挨拶を返しながら、申し訳なさそうに告げた。
「私達に構わずに仕事を続けてくださいな。紅茶園を広くするんですね。ここの紅茶は人気なので皆喜びますよ」
ここまで案内してきた作業員が照れた。
「俺達も、いつまでも不法占拠して暮らすわけにはいかないですからね。収入が増えたら、土地と家を買って安心して暮らしたいものです」
ゴパルが彼の丁寧な口調に内心で驚いている。この作業員は中年の男なのだが、学校に通っているのだろう。顔つきは丸顔のグルン族であるが、チャイとか言っていない。カルパナも作業員を優しく励ました。
「農村はどこも過疎ですからね。ここのシスワの農家も人手不足です。定住してくれる人は大歓迎ですよ」
作業の内容を聞いてみると、ちょうど茶の苗木の数がそろったので、今朝から苗木を定植していると言う。
一ロパニ当たり三トンの牛糞の厩肥と、三百キロの魚カス材料のボカシ肥料を撒いているらしい。
ロパニはネパール山間地の面積単位で、おおよそ五百平方メートルに相当する。
厩肥はリテパニ酪農で作ったものだそうだ。ボカシ肥料の魚カスは、ベグナス湖で養殖をしている農家から安く買っているという話だ。つまり、全ての肥料にはKLが使われている。
ゴパルが小首をかしげた。
「魚カスは腐りやすい材料ですよね。魚の内臓とかウロコでしょ。それよりは、鶏糞肥料を使った方が便利だと思うのですが」
作業員が少しドヤ顔になって答えた。
「鶏糞には石灰がたくさん入っているそうです。紅茶に石灰はいけません。魚カスは洗濯機に入れて脱水してから、臼でウロコや骨ごと潰して米ぬかに混ぜてますよ。豚や鶏の餌としても売れます。KLって良いですね」
開発者のゴパルが知らない使い方を、詳しく説明してくれた作業員であった。
「な……なるほど。そういう使い方もできるのですね。勉強になります」
神妙に聞いているゴパルを見て、カルパナがクスクス笑った。そして、作業員に穏やかな視線を向けた。
「パメでは乾期に入りましたので、土が乾き始めてきました。もみ殻燻炭にKL原液をかけてアルカリを中和したものを、畑に埋めていますよ。もみ殻燻炭が土中で水分を保ってくれます」
カルパナが新規開拓の茶畑の広さを目算しながら、話を続けた。
「ここでも考えてみてはどうでしょうか。後でクリシュナ社長さんにも提案してみますね」
作業員が明るい表情でうなずいた。
「了解しました、カルパナ様。社長からその作業の指示が出るかもしれないんですね。もみ殻の確保に今から動いておきますよ」
優秀な人だなあ……と感心しきりのゴパルであった。




