イチジク園
シスワのイチジク園に到着すると、既に苗を植えている作業中だった。
いつも通りにカルパナと作業員とが合掌して挨拶を交わす。ゴパルも同じように合掌して挨拶をしてから、興味深くイチジクの苗木を見つめた。
「イチジクはカブレでも栽培されていますが、家畜の飼料用との兼用では無さそうですね」
ネパールでは野生のイチジクが自生していて、この木の葉が牛や山羊の飼料として人気がある。さすがにサイレージにして発酵貯蔵するまではしていないが。
カルパナが作業員のリーダーから報告を聞き終えて、ゴパルに振り向いた。
「果樹としてのイチジクですね。カブレでも栽培しているはずですよ。これはトルコの品種を使っています。鍛冶屋の方がイスラム教徒ですので、彼の紹介でモスクを介してトルコの種苗生産者を紹介してもらいました」
そんな入手ルートがあるのかと感心するゴパルだ。カルパナが穏やかな声で話を続けた。
「ポカラは雨が多いので育ちが少し悪いのですが、畑の排水を良くしたりして工夫しています」
鍛冶屋と聞いて、カルパナの腰に大きな山刀が吊るされてないなあ……と気づくゴパルであった。護身用にはあの唐辛子スプレーで十分なのだろう。その威力はゴパルも身をもって知っている。
カルパナもゴパルの仕草を見て気がついたようで、穏やかに微笑んだ。
「山刀は重いですので、今は小さめの鎌にしようかと考えていますよ。鍛冶屋さんで作ってもらっています」
こうして畑を巡回するのであれば、ちょっとした作業や株の手入れをする機会もあるだろう。その際に手ぶらでは不便だ。ゴパルが少し考えた。
「なるほど……私も一つ小さな鎌を買おうかな。ABCまでの道で見つけた草木や花を採集するのに便利ですよね」
カルパナが素直にうなずいた。
「そうですね。鎌があると何かと便利ですね。それでは、鍛冶屋さんにもう一本鎌を作ってもらいましょう」
「お願いします。あ、でも金欠ですので、できれば安く仕上げてくれると助かります」
恐縮しているゴパルに、ニッコリと笑って答えるカルパナだ。
「はい、そのように伝えますね」
その後はカルパナがゴパルに、今回のイチジク苗の定植作業について簡単に説明をしてくれた。
まず直径と深さ共に五十センチ程度の穴を掘っていく。穴の間隔は数メートルといったところか。穴の中に最初に土ボカシを六百グラム入れて、穴の底の土とよく混ぜる。
そうしてから土を戻して、穴を半分ほどまで埋め戻す。これにより、イチジクの苗木の根が直接土ボカシに接触しなくなる。
「これって、元々は生ゴミボカシを想定していたのですが、土ボカシが使えるようになりましたので変更しました。ですが、作業員が混乱するといけませんので、生ゴミボカシを使う際の手順をそのまま使っています」
カルパナの説明に納得するゴパルだ。土ボカシであれば根が直接触れても害は出ないのだが、作業員にとっては馴染みがまだ無い。
植穴にイチジクの苗木を差し込んで、支柱を立てて十分に水を与える。この水もKL培養液と光合成細菌の千倍希釈液だ。
実際にイチジクの苗木を植えている作業員達をカルパナが指さした。植えたばかりのイチジクの苗木を、作業員が鎌を使って切り払っている。
「苗木の地上部分をああやって切り取っています。地面から高さ二十センチ以上の部分を切る感じですね。最後に、切り口に木工用ボンドを塗って、傷口を塞ぎます。こうする事で、背の低いイチジクになるんですよ」
ゴパルが感心して答えた。
「あ、そうか。矮化栽培ですか」
カルパナが穏やかにうなずいた。
「はい」
矮化栽培というのは、果樹が高く育たないようにする方法だ。主にこうして枝を切る事で成長を制御する。リンゴやミカン等でも行われる一般的な栽培方法である。
「放牧牛や山羊を避けるために、この後で網柵を巡らせます。KLを最初から使った畑になりますね。どうなるのか楽しみです」
そしてスマホで時刻を確認してから、ゴパルに告げた。
「お待たせしました。そろそろレカちゃんの所へ行きましょうか」




