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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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試食と雑談

 揚げピザが次々に揚がってきたので、それらを配るサビーナだ。

 最後に、揚げピザをまな板の上に置いて包丁で半分に切った。切り口からは赤いトマトソースと、白く溶けたモッツァレラチーズがはみ出してくる。特にチーズの方はビヨーンと伸びている。

 その切り口をレカがスマホカメラで接写して、のんびりとした声を上げた。

「撮影おわりー。食べるぞー」


 ゴパルがネパール和紙に包まれた揚げピザに噛みついた。熱かったようで、目を白黒させている。

「うっ、わっ。熱っ。あっ、でもピザ生地が面白いですね。外側は揚がってサクサクなのに中はモチモチしてる。トマトソースとモッツァレラチーズって、油と相性が良いんですね。確かに中身はピザだな」

 モッツァレラチーズがビヨヨンと伸びて垂れそうになったので、慌てて口の中へ吸い込むゴパルだ。やはり熱いので目を白黒させている。

「で、でも美味いですねっ。人気になるのが分かります」

 サビーナが目を細めて笑いながらも、口調を少し厳しくしてゴパルに告げた。

「でも、あんまり食べない事。ますますデブになるわよ。今でさえ使えそうな部位に乏しい体なんだから。これ以上太ると、殺処分して石灰でくるんで埋めるからね」

 ゴパルの体を等級の低い豚か何かの枝肉として見ているようである。病気になって食肉に適さない枝肉は、石灰粉で包んで土中に埋めて処分する事がある。


 アバヤ医師も揚げピザを嬉しそうに食べていたが、それを聞いてコホンと小さく咳払いをした。我に返ったらしい。

「成人病にも色々あるんだが、医薬品も色々とあってな。その開発中に使われる実験動物はオスが多いんだよ。理由はメスの場合、生理的にオスよりも複雑だからなんだがね。で、人間の被験者でも男ばかりを採用する傾向がある」

 いきなり専門的な話を始めたので、キョトンとするゴパルとサビーナ、カルパナだ。レカは脇目もふらずに揚げピザを食べている。

 アバヤ医師が白ワインを一口飲んでから、悠々とした口調で話を続けた。

「女性向けの薬でもそうなのだよ。故に副作用が起きたり、過剰服用になったりする場合がある。ワシら男のオッサンに説教するよりも、君達女性の心配を優先すべきだな」

 一斉にカルパナとサビーナから、ジト目視線の集中砲火を浴びるアバヤ医師であった。しかし彼には効果は無かったようだ。揚げピザをパクパク食べながら白ワインを喉に流し込んでいる。

「うむ、美味いな。実に美味いな」


 険悪な雰囲気になってきたので、ゴパルがゴビンダ教授の近くへ避難した。

「ゴビンダ教授。ミカン復活事業ですが、どのような育種方法を採用しているのですか?」

 白ワインをグラスからこぼさないように注意する。

「私の研究室もKLで発酵させた有機肥料を、そのミカン園に使っています。もしかすると、そちらにとって何か支障が生じたりしませんか? 有機肥料って微生物の塊ですし」

 以前にラビ助手に聞いた際には特に問題ないという返事だったのだが、改めて聞いてみるゴパルだ。

 ゴビンダ教授がラビ助手と視線を交わしてから、ゴパルに顔を向けた。ピザを食べているせいか、かなり気楽な表情になっている。

「問題なかろう。むしろ有機肥料を使うから、土壌微生物やら昆虫やらの種類と数が増えるので歓迎するよ。これは実証試験だからね。より自然に近い環境での観測ができるのは、我々にとっても都合が良いんだ」


 なるほどと納得するゴパルだ。

 KL構成菌は、首都の盆地内で採集した自然の微生物を寄せ集めたものだ。ポカラの場合は、さらにポカラの土着菌も混じっている。

 一方バクタプール酒造で使っているような酵母菌や乳酸菌は、反対に微生物学研究室の中で純粋培養されたものだ。

 ゴビンダ教授が食べている揚げピザから、白いモッツァレラチーズがビヨヨンと伸びた。それを急いですすりながら話を続けた。

「ミカン復活事業だが、主に使用しているのはゲノム編集技術だな。改良型なので、かなり安全確実に遺伝子を操作できるぞ」


 遺伝子はDNAと呼ばれる二重らせん状の紐に組み込まれている。そのDNAには多様な装飾が施されていて、入れ物の中に収まっている。この全体をゲノムと呼ぶ。装飾や入れ物を変えても遺伝子の機能を変化させる事ができるため、ゲノムの編集という意味になる。

 このゲノム編集では、遺伝子を含むDNAを切断して切り貼りしていたのだが色々と不都合が生じた。予定した場所以外を切ってしまったり、導入した遺伝子が働かなかったり、毒を作り出したり、予期しない遺伝子が勝手に機能したり……等だ。

 そのため、この時代では不都合が生じないよう確実に編集ができる工夫がいくつも採用されている。その事をゴビンダ教授が言っているのだろう。


 微生物学研究室でも同じような手法を活用しているので、すんなりと理解したゴパルだ。

「作物分野でもやっているんですね。汎用性が高いなあ」

 元々、このゲノム編集技術は作物の遺伝子を編集するために開発されたのだが……その点は指摘せずに、ゴビンダ教授がニッコリと笑った。

「この技術を使えば、カンキツグリーニング病やパパイヤのウイルス病、バナナの土壌病害でも克服できると信じているよ。ガハハ」

 その点には合意できないゴパルであったが、反論はしない事にしたようだ。今はピザの試食会と撮影会である。


 ピザを食べ終えて白ワインを飲み干した。満足そうな表情を浮かべてサビーナに礼を述べる。

「サビーナさん、今回もごちそうさまでした。金欠の身には嬉しい限りですよ」

 サビーナが少し同情気味の表情になった。

「いつまでも金欠状態が続いているわね。上官のクシュ教授に給料増やせって交渉してみたら? これから寒くなるから、防寒具やら灯油代やらで出費が増えるわよ」

 真剣に考え込むゴパルだ。

「……そうですよね。標高4100メートルで文無しはヤバイですよね。クシュ教授の機嫌の良い時を見計らって訴えてみます」

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