生ゴミボカシ製造試作機
チヤを飲み終えてから一緒に工業大学の倉庫へ向かったゴパル達だ。
彼らがそこで見たのは、見事に米ぬかまみれになった機械であった。ディーパク助手がボサボサ頭をかきながら弁解する。
「ははは……三日前に組み立てて、それからずっと試運転やら調整やらしてたもので」
ちょうど清掃会社の作業員が掃除をしていて、迷惑そうな顔でディーパク助手に告げた。
「粉だらけで掃除が大変なんですよ、ディーパク先生。アリもやってくるし。他の機械に悪影響が出ても知りませんよ」
素直に謝るディーパク助手とスルヤ教授であった。
一応ゴパルもボサボサ頭の二人に忠告しておく。
「米ぬかは放置するとカビの温床になります。アリの巣も生じやすいですから、気をつけた方が良いですよ」
ぶつぶつ文句を垂れ流しながら倉庫から去っていく清掃員を見送って、スルヤ教授がゴパルとカルパナに振り返った。すっかりニコニコ笑顔に戻っている。気持ちの切り替えが早いようだ。
「さて、それでは簡単にこの機械の説明をしておこうか」
ゴパルとカルパナの返事を待たずに話し始めるスルヤ教授であった。
それによると、この機械は生ゴミボカシを一度に三百キロまで処理できるように設計したそうだ。
スルヤ教授が黒褐色の瞳をキラリと光らせて、二重あごを右手で触った。
「生ゴミボカシだが、水分量が多いな。水分調整に米ぬかを加えてみたんだが、そうすると全体量が倍近くに増える。ローティの生地みたいになって良くない。そこで、発想の転換をしてみた」
生ゴミボカシだけを機械に投入して、それを直接乾燥させる方式に変更したそうだ。
「最初に活性汚泥処理施設で使っているような脱水ケーキを作る。特殊な布で包んで遠心分離で水分を飛ばす方式だな」
生活排水や畜産排水は、大きなゴミを網で取り除いてから一晩以上かけて静置する。そうすると、水分と固形分とに大雑把に分離する。
水分は別の処理槽で空気を大量に送り込んで浄化する。この浄化中にも固形分が発生する。これらの固形分を取り出して脱水したものが、脱水ケーキと呼ばれる産業廃棄物だ。
成分分析をして無害であれば肥料に使われ、有害であればコンクリート等に混ぜ込む増量剤として使われる。
「そうやって水分を飛ばしてから、この機械に入れる。百度の温度でかき混ぜれば、六時間後には粉末状になってる。魚の骨もかなり粉々になるな。米ぬかが多いとローティとして焼きあがってしまうから、こうやって減らした」
ゴパルが何か言おうとしたが、スルヤ教授が機先を制した。
「分かってるよ。百度だとKL構成菌が焼け死んでしまうんだろ。だから、この後で冷めてから再度KL構成菌を接種する。要は最後の段階で、発酵状態を維持しておれば良いのだろ?」
ゴパルが目を点にしながらも素直にうなずいた。
「そ……その通りです。驚きました。そういう考え方があるのですね」
ガハハ笑いをしたスルヤ教授が、米ぬかまみれの機械をバンと叩いた。
「KLは液体なので、接種後には再度乾燥させないといけなくなる。なので、固形の米ぬか嫌気ボカシを添加する事にした」
再び機械を叩くスルヤ教授だ。
「三百キロの生ゴミボカシ原材料に対して、五キロの割合で十分だったよ。温度が五十度以下になってから加えたが、それで問題なかろう?」
ゴパルが同意した。
「はい。その温度以下でしたら大丈夫です。ポカラでは気温が氷点下になりませんから、温度の下限は気にしなくても構いません」
スルヤ教授が満足そうにうなずいてから、別の機械に案内した。巨大な臼だ。
「この臼を使って、魚の骨や固い繊維を粉にする。後は、三十%に水分調整して袋詰めすれば完成だ。この水分はKL培養液の原液を使っているよ」
この臼も手で叩いている。
「ついでに光合成細菌もちょいと混ぜてみた。ペーハー値は4・1以下だな」
ゴパルが興味深く聞いて感心した。
「なるほど。袋詰めしてからKLで再発酵させるのですね。ですが光合成細菌は低いペーハー値なので、死滅はしなくても不活性化するかな」
そして、スルヤ教授と同じように臼をポンポン叩いた。
「酸性が強いので保存も利きますが、開封後は雑菌が繁殖する恐れがあります。注意書きとして、開封後は速やかに使い切るよう書いた方が良いでしょう」
スルヤ教授が小首をかしげた。
「ん? という事は光合成細菌の添加は無意味かね?」
ゴパルが明るい口調で否定した。
「いえ。袋の中でペーハー値が下がるまで時間がかかります。その間に光合成細菌が、タンパク質をアミノ酸にある程度分解するでしょう。使いやすい肥料になると思いますよ」
ディーパク助手がボサボサ頭をかいて補足説明をした。
「袋詰め機械はまだ導入していません。高価で故障も多いので。ですので、袋詰めにする代わりに二百リットルタンクに詰めて貯蔵しています」
ゴパルがカルパナと視線を交わしてからディーパク助手に同意した。
「それで良いと思います。発酵期間を二か月間にしておけば十分でしょう。そのままだと粉状ですので、ペレット加工すると便利になるかも」
スルヤ教授が続いて別の機械を紹介した。タンクがいくつか結合している機械だ。
「手前のタンクは脱水時に出た液をKLで発酵させている。液肥だな。周辺の農家で使ってもらっているが、良い評判だ」
カルパナが臭いをかいでうなずいている。
「良い発酵臭がしていますね」
スルヤ教授が満足そうにうなずいて、奥の方へ歩いていく。
「奥のタンクでは廃油を燃料に加工している。バイオディーゼルってヤツだな。これは、まだ実験段階だから非売品だ」
食用油の廃油にメチルアルコールと石灰石を加えて高温で反応させる事で、ディーゼル燃料を合成する事ができる。ただ、これには不純物が多く混じっているので、水でディーゼル油を洗浄して精製する必要がある。
なお、石灰石は反応後に回収して、リン酸を加えるとグリセロリン酸カルシウムができる。これはカルシウム添加剤として歯みがき粉や脱脂粉乳等に使用できるので、副収入源としての期待がある。
カルパナが穏やかに微笑んだ。
「生ゴミボカシ肥料と抱き合わせて売れば、大丈夫だと思いますよ。私も農家に、土ボカシと生ゴミ液肥を併せて使ってもらうように指導しています。廃油は土と混ぜて肥料にしていますよ」
その後は、倉庫の中で雑談をするゴパル達だ。研究室の中よりも気が楽なのか、こういった場所で話す方が良いらしい。
目下の最大の問題点は、収集した生ゴミにプラスチックやビニール袋、太い骨、金物やホチキス針、タバコの吸い殻等が混入している事だった。
これらを分別するには、高度な人工知能を搭載したセンサー付きロボットが必要になると、スルヤ教授がジト目になった。当然、そんな事をすればコストが跳ね上がる。
「絶対に混入させない事だな。違反したレストランやホテルには罰則を与えた方が良かろう」
それに対しては異存のないゴパルとカルパナだ。
次に、別の懸念事項をゴパルが提示した。
「生ゴミですが、季節に応じて材料が大きく変わります。有機肥料の成分もそれにつられて変化しますね。可能であれば、一年間貯蔵しておいてブレンドするのが最善でしょう」
それには渋い表情をするスルヤ教授とディーパク助手だった。
「一年間も貯蔵していたら、大きな倉庫が必要になる。それは非現実的だな」
少し考えていたカルパナが提案した。
「でしたら、季節ごとにまとめてはどうですか? 二か月間だけ貯蔵して、それを混ぜて品質を揃えるとか」
ゴパルが感心した。
「なるほど。つまり年間で六種類の肥料を仕込むという事ですね。ちょうどタンク内での発酵期間と同じですし、良い案だと思います」
スルヤ教授とディーパク助手も、その期間であれば反対の立場ではなかった。スルヤ教授がニコニコしながらカルパナに告げた。
「ワシからもラビン協会長に報告と提案をするが、カルパナさんからもしておいてくれ。優先順位は下がったが、ホテル協会としては将来必要になる技術だからな」
カルパナが明るく微笑んで答えた。
「はい」
バイオディーゼル製造廃棄物には他に、廃グリセロールがあります。
廃グリセロールを120倍以上に水で希釈して、空中窒素固定細菌A.vinelandiiを培養します。するとアルギン酸とポリヒドロキシ酪酸が産生されます。これを使って生分解性のプラスチック素材が生産可能です。
アルギン酸合成を阻害するとさらに効率が良くなるため、アルギン酸合成欠損株を用意すると良いでしょう。




