ポカラ工業大学
大学の駐輪場へ到着すると、ディーパク助手が出迎えてくれた。さすが工学系だけあって、長袖長ズボンの作業服姿だ。足元もサンダルではなく安全靴を履いている。
その彼がヘルメット二つを受け取って、素朴な表情でゴパル達を歓迎した。
「いらっしゃい、カルパナさんゴパル先生。ディーパク・アチャリャです。ようこそ、ジャンクパーツの森へ」
彼の身長はゴパルと同じくらいの百七十センチほどで、小太り体型なのだが色白だ。ゴパルはABCで紫外線に当たりまくっているために、今はかなり日焼けしている。
ディーパク助手は四角い顔つきで、ボサボサの黒髪が印象的だ。髪は短く切ってあるので、ラメシュよりも真面目そうに見える。ディーパク助手とは以前に面識があったので、簡単に自己処理を済ませた。
その彼に案内された先は、工学部第一研究室だった。研究室の扉の前に身長百五十五センチくらいの小太りな男が立っていて、素朴な笑顔で手を振った。
「やあ、ようこそガラクタ市場へ。ワシがスルヤ・プラサッド・スベディだ。この研究室の親玉をしてるよ」
スルヤ教授も同じく小太り体型だった。年齢は五十代後半といった所だろうか。身長は百五十五センチほどなので、クシュ教授に近い。
二重あごで頬も若干垂れているのだが、顔つき自体は彫りのはっきりした印象だ。黒褐色の瞳には好奇心の光が輝いていて、それが垂れ気味の細い目に収まっている。
ただ、ディーパク助手と同じくボサボサの髪だ。それが肩先まで伸びていて、枝毛だらけの毛先が跳ねている。
ゴパルが研究室の中を興味深く見まわした。ディーパク助手からチヤを受け取って、とりあえずすする。
「微生物学研究室や育種学研究室とも違う雰囲気ですね。ガラクタ市場と仰いましたが、整理整頓されていると思いますよ。私の研究室と違って見晴らしも良好ですし」
そう言いながら、大きな冷凍庫の前で立ち止まった。いかにも試作機という印象で塗装もされていない。その扉に付いている手書きのプレートの文面を読んだ。
「開明冷凍システム……ですか。もしかすると、サビーナさんのレストランで導入している冷凍庫ですか?」
スルヤ教授がニッコリと笑った。彼もディーパク助手からチヤを受け取っている。
「察しが良いな、ガハハ。その通りだよ。海外のメーカーや大学と共同開発しているんだ。冷凍しても細胞が壊れないシステムだな」
スルヤ教授が冷凍庫の扉をポンと叩いた。
「電磁波を出して細胞を振動させながら冷凍させるんだよ。ちょうど、電子レンジをかけながら冷凍するという感じかな」
ちょっとピンと来ない様子のゴパルとカルパナだ。スルヤ教授が構わずに話を続ける。
「食材に応じて電磁波の波長や強さを調整する必要があるんだが、サビーナさんの協力で良いデータが集まってきているんだよ。そのうち実用化できる見込みだ」
ガハハ笑いをするスルヤ教授をディーパク助手が見ながら、ゴパルとカルパナに補足した。
「消費電力量がまだ大きいのも課題ですけれどね。停電になったら使えませんし」
そして、自身もチヤをすすりながらカルパナに聞いた。
「今日は、生ゴミボカシ製造機の試作機を見に来たのですよね? 大学の倉庫で組み立ててありますので、見に行きましょう。ここでは米ぬかの粉塵が飛散するので、組み立てられないんですよ」
カルパナがチヤをすすりながら、申し訳なさそうな表情で告げた。
「生ゴミボカシですが……野犬や野ネズミの食害問題がありまして。結局私の畑では、土と混ぜてもう一回発酵させた土ボカシを使用する事になりました。そちらの方が扱いやすいですね」
スルヤ教授とディーパク助手が顔を見交わしてチヤをすすった。意外に落ち着いている様子だ。
スルヤ教授が軽く肩をすくめながらも、穏やかな口調で答える。
「カルパナさんから何度も報告をもらったからな。こうなる事はある程度予想していたよ」
素朴な表情でカルパナに聞いた。
「それで、ホテル協会としてはどうするつもりなのかね? 開発を中断しても別に構わないぞ。これまでに結構ノウハウが蓄積できてね、他分野の研究に応用できそうなんだ」
カルパナが否定の意味合いの首振りをした。
「ホテル協会としては、このまま開発を続けて欲しいそうです。土ボカシは一般向けの有機肥料としては扱いにくいですし。農家としても畑の土を売りに出されると困ります」
スルヤ教授がニッコリと笑った。
「まあ、そうだろうな。了解した、優先順位はかなり下がってしまうが、研究は続ける事にするよ」
繰り返して申し訳なさそうに謝るカルパナとゴパルだ。そんな二人にスルヤ教授がガハハ笑いをした。
「気にするな。研究ってのはこういうモノだよ。さて、せっかくだから倉庫に行こうか。組み立てて試験稼働中の生ゴミボカシ製造機をまだ見ていなかっただろ?」




