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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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その頃

 ゴパルはチヤをすすりながら、パメのカルパナ種苗店を見上げていた。二階建てだったのだが、増築して三階建てにするらしい。そのため、屋上には足場が組まれていた。今は数名の作業員が、鉄筋コンクリートの柱を何本も作っているのが見える。


 そこへ、客の会計を終えたビシュヌ番頭がチヤをすすりながら店から出てきた。ゴパルと同じように屋上の増築工事を見上げる。

「三階部分は、全てキノコの種菌生産と保管に充てるそうですよ。これでパメやチャパコット、それにナウダンダの農家にキノコ栽培を普及できます。カルナさんの居るジヌーからの需要にも応えるそうです」

 ゴパルがチヤを飲み終えてグラスを店先に置いてから、感心した。

「相変わらずの素早い行動ですね。この規模でしたら十分な普及ができると思いますよ」

 ビシュヌ番頭が照れながらチヤをすすった。

「今はヒラタケとオイスターマッシュルーム、それにフクロタケの三種類だけですけれどね。フクロタケは暑くなるまでは栽培できませんし」

 ポカラは亜熱帯なのだが、それでも暑くなってくるのは西暦太陽暦の三月中旬からだ。それまで待つ必要がある。

「増築部分の完成までは時間がかかります。クリスマスや西暦の新年までに完成させたいですが、ちょっと厳しいでしょうね」

 ゴパルが素直にうなずいた。

「そういえば、首都のバラジュ地区にある両親の家でも増築工事が長引きました。鉄筋コンクリートの養生とかで時間がかかるそうですし、電気や水道を引く手間もありますね」


 ビシュヌ番頭がチヤをすすりながら、ゴパルに聞いた。

「ゴパル先生のご両親は、お元気ですか? 椿油について指摘等を何か言っていましたか?」

 ゴパルが両目を閉じて首を引っ込めた。

「……すいません、聞くのを忘れていました。苦情があれば、すぐに私に言うはずです。それが無いので、不満なく使っていると思いますよ」

 ビシュヌ番頭が両手でチヤの入ったグラスを持ちながら、視線をチャパコットの森の一角に向けた。以前、カルパナに案内されたヤブツバキの林だ。

「それは良かった。ヤブツバキですが、そろそろ花が咲き始める頃ですね。ここからでもチラホラと赤い花が咲いているのが見えますか? ゴパル先生」

 ゴパルが目を凝らすと、確かにヤブツバキの林の中に多くの赤い点があるのが確認できた。

「あっ、見えました。今頃から花が咲くのですね。母から椿油の感想を聞いてみますので、少し待っていてください、ビシュヌ番頭さん」

 ビシュヌ番頭が穏やかに微笑んで答えた。

「急がなくても構いませんよ。次の製油作業はまだまだ先になりますし」


 そこへカルパナがバイクに乗ってやって来た。今日は野良着ではなくて、普通のサルワールカミーズにジャケット姿だ。ヘルメットからは癖の少しある黒髪が伸びている。

「お待たせしました、ゴパル先生。冬トマトの畑を見に行きましょう」

 チヤを飲み終えたビシュヌ番頭から、ゴパルがヘルメットを受け取った。明るい表情でカルパナに答える。

「はい、カルパナさん」


 途中までバイクで坂道を上り、その後は段々畑の中を歩いて登っていく二人である。ヘルメットはバイクのハンドルにかけてあるので、二人とも手ぶらだ。

 坂を上るにつれて、フェワ湖や対岸のチャパコットがよく見えるようになってくる。風もすっかり乾燥して、涼しく心地よい。青空を映しているフェワ湖を見ながら、ゴパルが垂れ目を輝かせた。

「ピクニック日和ですね。首都だともう寒くなって家の中に引きこもる頃ですよ」

 ゴパルの先を歩いているカルパナが振り返って、明るく微笑んだ。

「ここは南斜面ですから、冬でも暖かいですね。上のサランコットの丘では、とても寒くなっていますよ。ナウダンダもですね。どちらもアンナプルナ連峰からの冷気を直接受ける場所ですから」 


挿絵(By みてみん)


 そのような雑談を交わしながら、冬トマトの畑に到着した。ゴパルが網柵の中へ入ってトマトの実を手に取ってみる。

「まだ少し青いかな。それでも、トマトがたわわに実っていますね。花も落ちずにたくさん付いている」

 カルパナが嬉しそうにゴパルの感想を聞きながら、別の青いトマトに手を触れた。

「これといった病害虫もつかなくて、順調に実が大きくなっています。来週から収穫できそうですよ」


 そして、栽培の詳細を話し始めた。

 この冬トマトは苗の段階ではKLを使用していなかったそうだ。苗を畑に定植してからの使用になっている。生ゴミボカシを追肥として最初は使っていたのだが、野犬や野ネズミ等が侵入したために今は土ボカシに切り替えていると話してくれた。

「トマト一株当たり五十から百グラムで追肥をしています。今は肥料焼けは起きていませんよ。生ゴミ液肥も散布し続けています」

 感心して聞いているゴパルに、カルパナが少し困ったような笑顔を浮かべた。

「ですが、やはり肥料効果が強いですね。あまり与え過ぎると、トマトの枝葉ばかりが茂って花が付きにくくなります。この点に気をつければ他の農家にも普及できますね」

 ゴパルがカルパナの話を自身のスマホで録音して、続いてトマト畑の様子や土の状態を撮影した。

「肥料焼けが回避できそうで良かったですよ。収穫を楽しみにしていますね」

 カルパナが明るく答えた。

「はい。レカちゃんの酪農場でも、チーズや牛乳、水牛乳の品質が良くなってきているそうです。気温が下がって乾燥してきたせいもあるのですが、KLと光合成細菌の効果が大きいとレカちゃんのお父様が仰っていました」

 ゴパルがほっとした表情になった。

「嬉しいですね。特別ではない一般的な微生物しか使っていませんので、効果が出るまでに時間がかかるのがKLの欠点でしょうね。根気強く使ってくださって感謝します」

 カルパナがスマホで時刻を確認した。

「そろそろ時間ですね。ポカラ工業大学へ向かいましょうか」


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