子羊フィレ肉のパイ包み焼き
そこへ、給仕長がやって来た。テーブル担当の給仕が料理をゴパル達三人に差し出すのを見ながら、料理の説明を始める。
「子羊フィレ肉のパイ包み焼きです。これはパイというよりはクルートと呼ぶべきでしょうね」
クルートはパイよりも固めだ。このパイは直径が十センチほどの半球形だった。付けあわせはニンジン、タマネギ、インゲンの煮込みで、上にクレソンがひとつまみ乗っている。
パイが乗っている皿とは別に、ジャガイモの薄切りを使った小さなグラタンと、みるからにシンプルな肉汁を使ったソースが入った容器が添えられている。どれも熱々だ。
ゴパルが早速ナイフを入れて、パイ生地を切り分け始めた。
「肉が驚くほど柔らかいですね。パイ生地はザクザクしてます。なるほど、この切り心地のためにソースをかけていないのか」
クシュ教授が赤ワインを一口飲んでから、パイを切ってソースに浸してから口に運んだ。満足そうな笑みを浮かべている。
「ふむむ。僕好みの良い火加減だな。パイ包み料理は肉が見えないから、火加減が難しいらしいね。クルートか……なるほどね。柔らかくて繊細なパイでは、この子羊肉との相性が今一つだと感じたのか」
アバヤ医師もパイをパクパク食べながらご機嫌だ。ソースを文字通り湯水のように使っている。
「子羊肉の香りを、このパイ生地で閉じ込めていますからな。普通のグリル料理とは違った香りが楽しめるのが、この料理の特徴でしょう」
そう話しながら、パイを口に運んでいる。
「まあ、ワシはグリルで焦げた香りも好みだけどな。食べるのに熱中し過ぎて、面接の観察仕事を忘れてしまうよ」
実際に、アバヤ医師が全く協会長のテーブルを見なくなったので、忠告するゴパルだ。
「アバヤ先生。仕事、仕事」
一方のカルパナのテーブルを見ると、かなり気疲れしているカルパナがゴパルに救難信号を送ってきた。とりあえずもう少しですと、身振りで知らせるゴパルだ。
(交流会って大変なんだなあ。私にはできそうにもないな)
パイ生地も全部食べたので、かなり満腹になったゴパル達三人だ。
なので、担当給仕がデザートを何にするか尋ねてきたのだが、ゴパルが梨のシャーベットを頼んだだけだった。クシュ教授とアバヤ医師は頼まずにコーヒーで締めた。アバヤ医師はエスプレッソにしようか迷っていたようだが、結局コーヒーにした。
ゴパルが腹をさすりながら、一息つく。
「さすがに、お腹いっぱいです。これがディナーだったらゆっくり食べるので、もう一つくらいデザートを注文できたかも知れませんが」




