コイのムースのアメリケーヌソース
ゴパルがクシュ教授やアバヤ医師に気づかれないように、カルパナに手を振ってエールを送っていると、魚料理が運ばれてきた。思わずゴパルの垂れ目がキラキラと輝いていく。
「おお。キレイな仕上がりですね。量もしっかりありそうだ」
給仕長の説明によると、コイの身をムースにして、それをコイのフィレ肉で巻いたという話だった。白身に映えるようなアメリケーヌソースがたっぷりとかけられていて、ニンジンとセロリの千切りがトッピングされている。皿の端にはザリガニのむき身が乗っていて、赤い色のアクセントになっていた。
皿全体にはセルフィーユが散らされていて、見た目が鮮やかだ。何よりも熱々で湯気が立っている。
アバヤ医師が、早速ナイフを入れて切り始めた。
「コイとザリガニは、地元ベグナス湖で養殖されているものを使っていると聞いた。ゴパル君は養殖場には行ったかね?」
ゴパルが早くもコイのムースを口に運びながら、軽く首を振った。
「いいえ、行ってません。KL事業が進展してから行こうかと考えています。今は手一杯でして……うわ、美味しいですね」
比較対象がガンドルンで食べたニジマス料理ぐらいしかないので、表現力が乏しいゴパルだ。海外でもコイの料理は食べた経験が無かったので、これまた比較できない様子である。
一方のクシュ教授は堂々としたものだ。
「コイ料理はバングラデシュに数多くあるが、こういうフランス料理で食べるのも良いな。香辛料や香味油を使っていない分だけ、コイの身の風味がはっきりと分かって楽しめるよ」
アバヤ医師が楽しそうにクシュ教授の感想を聞きながら、さりげなく協会長のテーブルに視線を向けた。
「向こうは別の料理を食べているようだね。縮こまっていた人は、ようやくリラックスしてきたようだ。自己アピールしている人は、さらに熱弁を奮い始めたようだな。給仕に対して、偉そうな態度を示し始めている人も出てきたか」
ゴパルもアバヤ医師につられて協会長のテーブルに視線を向けた。彼には、皆食事を楽しんでいるようにしか見えていない様子だ。
「よく見ていますね。あ……白ワインを調子に乗って飲み干してしまった」
すぐに担当の給仕が寄ってきて、残り少なくなったグラスに白ワインを注いでくれた。パンのお替りも尋ねられたので一つもらう事にする。
給仕に礼を述べて、彼の後ろ姿を見送りながらゴパルが感心した。
「すごい勘ですね。私が白ワインを欲しいと思った瞬間に注いでくれましたよ」
アバヤ医師がゆっくりと食事を楽しみながら、ゴパルにうなずいた。
「客が何かを頼みたいと思えば、仕草に現れるものだ。それを読み取って即座に対応するのが、本来のサービスというものだよ。グラスが空になったり、客が担当給仕に手を上げて頼むようでは、給仕としては失格だ」
ゴパルが目を点にして聞いている。
「まるで超能力者ですね。鈍い私には、とても務まりませんよ」
アバヤ医師とクシュ教授が顔を見交わして、同じような笑みを浮かべた。
「だろうな」
「だろうね」
ゴパルをネタにして太鼓腹二人組が、からかって遊んでいると、給仕長がやって来た。
「アバヤ先生、そろそろ肉料理の出番になります。赤ワインにいたしますか?」
アバヤ医師が上機嫌な顔で即答した。
「うむ。楽しい時間はすぐに過ぎてしまって困るな。では、赤ワインを頼むよ。味見はまたクシュ先生にしてもらおうかね」
クシュ教授が赤ワインの味見をして、これで良いと答えた。給仕長が三人の赤ワイン用グラスに注いでいく。おかげで今やグラスが三種類もある状況だ。
ゴパルがカルパナの冷たい視線を感じながら、クシュ教授に小声で訴えた。
「このテーブルだけワインが林立していませんか? どう見ても大酒飲みの酒宴ですよ」
クシュ教授が当然のような顔で答えた。
「そりゃあ、酒飲み階級のネワール族がここに居るからな。ゴパル助手も酒飲み階級だろう、何を恥じる事があるのかね」
ゴパルがジト目になった。
「うう、まあそれはそうですが……」




