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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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パメ

 ジヌーでは軽食を摂るに留めて、ポカラへ向かったゴパルであった。ディワシュ運転手が走らせている小型四駆便をガンドルンへの上り口で小一時間ほど待った他は、特に待つこともなく順調に乗り継いでポカラのパメまで到着する事ができた。そのままカルパナ種苗店まで歩いていく。

「こんにちは、ゴパルです」

 種苗店は相変わらず客が多く詰めかけていて忙しそうだ。

 客の会計を済ませたビシュヌ番頭がゴパルに合掌して挨拶を返した。二重まぶたの細い目をさらに細めている。背丈はゴパルよりも低いのだが骨太な体格で、それに加えて威厳ある雰囲気だ。

「これはゴパル先生。予定よりも少し早い到着ですね」


 ゴパルがリュックサックをベンチに乗せて、長袖シャツの袖を巻き上げた。

「どこでもお酒を勧められるので、逃げてきたら早く到着できました。ええと、今回は土ボカシの出来を確認して、育苗土を仕込む予定ですね」

 ビシュヌ番頭が素直にうなずいた。

「はい。その予定ですね」

 ゴパルが首を少し引っ込めて謝った。

「クシュ教授が、ポカラへ明日の朝の飛行機で到着する予定です。ですので、少し予定が立て込むかもしれません、すいません」

 ビシュヌ番頭が客の会計処理をさらに二件済ませて、ゴパルに申し訳なさそうな表情を向けた。

「今回は、謝らないといけないのは私達だと思いますよ。肝心のカルパナ様がまだ帰ってきていません」

 ゴパルがカルパナの弟のナビンからチヤを受け取ってすすりながら、首をかしげた。

「え? 何か起きたのですか?」


 ナビンとビシュヌ番頭が顔を見交わして、本当に困ったような表情を浮かべた。ナビンが答える。

「実はですね……うちのバカ姉はキノコ狩りに突然出かけて、それっきりなんですよ。スマホで連絡だけは取れますけれどね」

 目を点にしているゴパルであった。


 それでも、カルパナが十五分後にバイクに乗って種苗店まで戻ってきた。野良着版のサルワールカミーズ姿で、肩や髪に枯れ葉がいくつか付いている。足元はサンダルを含めて腐葉土まみれだ。

 ヘルメットを取るなり、ゴパルに平謝りした。

「すいませんっ、ゴパル先生。チャパコットの森でキノコ狩りをしていたら、遅くなってしまいました」


 ゴパルが二杯目のチヤをすすりながら、にこやかに答えた。種苗店で売られている花やランを見て回っていたので、それほど退屈はしていなかった様子である。

「十五分遅れで謝る必要はありませんよ。半日遅れになっても許容範囲です。世の中には、バングラデシュまで逃げて知らんぷりを決め込む悪党も居ますしね」

 さらっと上官の悪口を言うゴパルだ。

「今回の予定は、明日の朝九時に空港でクシュ教授を出迎えるくらいですから、どうか気楽に」

 ビシュヌ番頭がチヤを持ってきたので、それをカルパナに勧めた。

「とりあえず、一服してください。その後で土ボカシの状態を確認しましょう」


挿絵(By みてみん)


 カルパナが洗面所で顔や手足を洗って、チヤ休憩を済ませた。落ち着いた表情になったのを見たゴパルが、彼女と一緒に倉庫へ向かう事にする。今回はビシュヌ番頭も同行するようだ。店番はナビンが継続して担当している。

 さすがに反省している様子の姉の姿に、ナビンが満足の笑みを浮かべているようだ。ゴパルから空になったグラスを受け取って礼を述べた。

「ここ最近キノコキノコと浮かれていたので、ちょうど良かったですよ、ゴパル先生。姉は調子に乗ると、ブレーキが利かなくなる性質たちなもので。カルナさんと友達になってから、ソレが悪化しているんです」

 ゴパルもカルパナのバイクの運転を目の当たりにしているので、素直に納得している。

「なるほど。しかし、カルパナさんのおかげでKLの実証試験が進んでいます。私としては感謝するしかありませんよ」


 カルパナが恐縮している。弟のナビンにはジト目を向けているようだが。

「カルナちゃんからは、後日キノコ狩りに行こうと誘われていまして……浮かれ過ぎは良くありませんね。気をつけます」

 ゴパルが明るい表情で答えた。

「私もキノコ狩りは好きですよ。好きが高じて今の研究職に就いてしまいました。さあ、倉庫に行きましょう」


 倉庫の中は、半分ほどがキノコの種菌作りの場になっていた。ゴパルが軽く腕組みをして、カルパナに提案する。

「カルパナさん。キノコの種菌作りの規模が大きくなりそうですね。ここは思い切って、どこか空き家か小屋を借りて引っ越してみてはどうですか? 倉庫は種苗店にとっても必要でしょう」

 カルパナがビシュヌ番頭と顔を見交わしてから、ゴパルに答えた。

「そうですね。これからランの出荷が本格化してきますし、一時保管のための倉庫は必要になりますね。分かりました、どこか探してみます」


 ゴパルが倉庫の一角に置いてある二百リットルタンクのフタを開けた。臭いをかいで、表面の白くなった土を手につかむ。ゴパルの表情が満足そうな笑みに変わった。

「良い出来ですね。微生物の活動も落ち着いています。これなら肥料として使えると思いますよ」

 カルパナとビシュヌ番頭もやって来て、ゴパルと同じように土ボカシを手に取って確認した。

「キノコの香りが強くします。これなら野犬やネズミの餌にはなりませんね」

「なるほど、こういう臭いが目安なのですね。了解しましたゴパル先生」

 ゴパルが自身のスマホカメラで土ボカシの状態を撮影してから、カルパナに振り返った。

「では、次に育苗土の仕込みを始めましょうか」

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