低温蔵完成
三日後、ABCにある民宿ナングロでは低温蔵の完成祝いパーティが行われた。しかしゴパルは風邪をひいてダウンしていたので、部屋でふて腐れて寝ていたが。
パーティの主賓が不在なので、代わりにラメシュが代理に祭り上げられていた。ディワシュやサンディプ、それにセヌワのニッキやジヌーのアルジュン、さらにはヒンクの洞窟茶店のオヤジに、ガンドルンの手前のシャウリバザールの茶店のオヤジまで参加して酒をガブガブ飲んでいる。
酒飲みばかりに囲まれたラメシュも、当然のように酒飲め攻撃を受けていた。
「マジかあああ……おのれゴパルううう……風邪で逃げるとは卑怯だああ……」
他の二人の博士課程も同じく酒飲め攻撃を食らって、既にダウンして動かなくなっていた。
そんな屍のような二人に毛布をかけて埋葬していくアルビンである。そして顔を酒で赤く染めながら、据わった目つきでラメシュに絡んでいった。
いつも頭に被っている大きな毛糸の帽子は、暑いのか今日は使っていなかった。そのため、首の後ろで簡単に束ねた黒髪の長髪が、荒ぶる尻尾のようにブンブン振り回されている。
「ゴパルの旦那の分まで飲みましょうぜ、ラメシュの旦那あ」
ディワシュも絡んできた。
「いやいや、そこでくたばっているチャイ、仲間二人の弔い合戦だ。三人分の酒は飲まないとナー! うらうら飲め飲め」
サンディプが丸太のような太い腕をラメシュの肩に乗せて引き寄せた。物凄い力だ。
「俺達も付き合うぜー! 飲め飲め。ツマミもチャイ、たくさんあるぞお」
セヌワのニッキと、ジヌーのアルジュンも完全に酔っ払いのオッサンと化していた。グルン語で何やら歌い始めている。そして、その歌を強制し始めた。
「ウラウラ、ラメシュ先生も歌え歌えヒャッハー。虎狩りだー! ボテ犬けしかけ銃でズドン。森林レンジャーには見つかるなー」
ラメシュが目を回しながら抵抗する。
「私はグルン語できませんってばー。っていうか、それ密猟の歌じゃないっすかー」
ヒンクの洞窟のオヤジが何やら踊り始めた。
「だったら、踊れ踊れー。何でも良いぼ。インド映画でよく踊ってるらー」
シャウリバザールのオヤジも踊りに加わってきた。彼も歌い始めたのだが、グルン語では無さそうだ。
「プン族の踊りと歌を見せてやるらー。おそれおののけ、おまえらー」
酒の飲み過ぎで頭がグルグル回り始めたラメシュが悲鳴を上げた。
「やーめーてー」
騒ぎ声はゴパルが伏せている部屋にも聞こえていた。とりあえず、窓から見えるアンナプルナ主峰に向かって祈るゴパルである。
「すいません、豊穣の女神様。ラメシュ君が生贄になってますので、それで勘弁してください」
そんなこんなで『ごくささやかな』完成祝いが終わったのであった。ラメシュ達はさすがに若いだけあり、翌日には下山していく準備をしている。多少足元がふらついているようではあるが。
下山の装備を終えたラメシュが病床のゴパルの元を見舞ってくれた。
「それでは、私達はいったん首都へ戻ります。今後は、交代制で一人ずつ登ってきますね」
ゴパルがベッドから上体を起こして了解した。
「すまないねラメシュ君。もう熱は引いたから、明日からは仕事ができそうだよ。やっぱり観光シーズン中にウロウロすると、風邪のウイルスに暴露しやすくなるね」




