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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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雑談と出迎え

 アバヤ医師も撮影を終了して、興味深い表情をしている。ほとんどつながっている細い一本眉が、二重まぶたの目の上で踊っていた。

「実に面白い講習だったよ、ゴパル君。リンゴだがね、青リンゴにはリンゴポリフェノールという生理活性物質が多く含まれるのだよ。こいつを濃縮精製して患者に注射する事で、変形性膝関節症の症状を緩和させてみるという研究が行われておる。リンゴは面白い果実だよ」

 さすがに専門用語がいくつも出たので、あまり理解できていない様子のゴパル達であった。


 アバヤ医師が太鼓腹をポンと叩いて、くっくっくと笑った。

「未熟な青リンゴも役に立つと言っただけだよ。さて、ワシも腹が落ち着いたようだ。今回のピザパーティは、これで終了いう事で良いかな?」

 サビーナも壁掛け時計の時刻を確認して、軽く肩をすくめた。

「そうね。あたしもレストランの仕事に戻らないといけないし。今回はここまでにしましょう」


 ゴパルがピザ屋の外に出て、カルパナが駐輪場からバイクを引き出して来るのを待っていると、レカがビクビクした表情で寄り添ってきた。不思議に思うゴパルだったが、すぐに察した。

「まだ人混みが多い時間帯でしたね。レカさん大丈夫ですか?」

 レカがスマホ盾をゴパルにかざしながら、それでもゴパルのシャツの背中を片手で摘まんだ。

「あ~う~……大丈夫じゃないー」


 とりあえず、鳥の止まり木のような役目を負わされるゴパルであった。レカが挙動不審な動きを激しくさせながらも、ピザが入った箱を死守して持っている。白ピザで使った硬質チーズの香りが、ゴパルの鼻をくすぐった。

「リテパニ酪農産の硬質チーズ、前回よりも品質が良くなっていましたよ。香りも良い感じです」

 しかし、レカは無言でゴパルの背中にショルダータックルを繰り返すばかりだ。表情はスマホ盾に隠れてしまっていて、ゴパルからでは見えない。ただ、両耳が真っ赤なので、相当に緊張している事は確かだろう。


 それも一分ほどで終わり、ピックアップトラックを運転するラジェシュが迎えに来てくれた。ゴパルとレカを見てニマニマしている。

「やあ、我が引きこもりの妹君よ。執事が迎えに参りましたぞ。護衛のゴパル騎士には役目達成の感謝を」

 レカが脱兎のようにピックアップトラックの助手席に転がり込んだ。そして、とりあえずラジェシュの肩を叩く。しかし、ピザの入った箱は大事に抱えているままだ。

「うるさいなーもー。出発、出発ー!」

 しかし、ラジェシュは停車させたままだ。運転席から身を乗り出してゴパルに礼を述べた。

「いつもすいませんね、ゴパル先生。これでも少しは外交的になってきているんですよ」


 ゴパルが笑顔でうなずいてから、少し考えた。

「毎回、ここまで送迎するのは大変でしょう。電動自転車とかレカさんに渡してはいかがですか。体力づくりにも役に立ちそうですし」

 ラジェシュが真面目な表情で考え込み始めた。その間にも、レカがポカポカとラジェシュの肩を殴り続けている。

 しかし、思考は警官がやってきたので中断してしまったようだ。ゴパルと駐輪場からバイクを引き出してきたカルパナに片手を振った。

「おっと、いけねえ。電動自転車はちょいと考えておきますよ。では、また」

 そのまま人込みであふれるレイクサイドの道を走り去っていった。カルパナがゴパルに聞く。

「電動自転車ですか?」

 ゴパルがヘルメットを受け取りながら頬を緩めた。

「レカさんの運動不足解消の手段として、一つ提案してみました。でも、レイクサイドとリテパニは距離があるから、バイクの方が良いのかな」

 カルパナもヘルメットを被り、穏やかな目をゴパルに向けて微笑んだ。

「そうですね。いきなりポカラまで往復し始めると、筋肉痛になってしまうと思いますよ。私もちょっと考えておきますね」


 その時、ゴパルのスマホに電話がかかってきた。カルパナに断ってから、電話に出るゴパルだ。

「ゴパルです。ラメシュ君かい? 無事にポカラ国際空港へ着いたようだね」

 カルパナがバイクのエンジンを点火させた。心地よい排気音が鳴り始める。

「空港まで送りますよ、ゴパル先生」


 空港前の駐車場に到着すると、ラメシュ達三人の博士課程がリュックサックを背負って手を振っていた。空港の外は、相変わらず乞食や客引きが大勢居て賑やかだ。

 カルパナがタクシー乗り場のそばにバイクを停めると、そこへラメシュ達が小走りでやって来た。すぐに合掌して、カルパナに挨拶する。

 代表してラメシュが自己紹介をした。

「こうして直接会うのは初めてですね。こんにちは、カルパナさん。ラメシュ・ナガルトキです。キノコの種菌ではお世話になりました。ええと、私の隣のデブがダナ・タパ。こちらのチビがスルヤ・シャルマです」


 カルパナがヘルメットをわざわざ外してから、丁寧に合掌して挨拶を返した。

「カルパナ・バッタライです。キノコの種菌は、順調に増えていますよ。ラメシュ先生のおかげです」

 先生と呼ばれて照れているラメシュだ。ダナとスルヤがゴパルに近づいて、肩で小突いた。

「画面で見るよりも遥かに美人じゃないですか、ゴパルさんっ」

「これじゃあ、カルパナさんのヒモだの間男だの金魚の糞だの言われるのも納得っすよ、ゴパルさんっ」

 ゴパルがジト目になって、肩で二人を小突き返した。

「おいおい……牛糞先生って有名なんだよ。これ以上、変な呼び名を付けるなって」


 カルパナとは空港で別れて、ゴパル達はタクシーでルネサンスホテルへ直行した。ホテルでチェックインをしていると、協会長が申し訳なさそうな表情をしながらやって来た。

「すいません、ゴパル先生。ホテルの部屋がまだ満室続きでして、空き部屋を確保できませんでした。ゴパル先生の部屋に雑魚寝させてしまい、申し訳ありません」

 ゴパルがニコニコしながら両手を振った。

「お気遣いなく、ラビン協会長さん。雑魚寝は慣れていますよ」

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