白ピザと
ゴパルが白ワインを一口飲んでから、赤ピザにナイフとフォークを入れた。一インチ以上もある分厚いピザ生地にナイフがサクッと通っていく。思わず口元が緩むゴパルだ。
「うは。サクサク切れますね。トマトソースも分厚いし、何よりも具だくさんなのが嬉しいですね」
サビーナは早くもピザを口に運んでいる。ゴパルと違い、表情はごく普通だ。
「ま、こんなものよね。汎用小麦粉だから、粉の旨味が乏しいのよ。これはピザ生地が分厚いから余計にそう感じてしまうな。やっぱり、店で売るのは薄いピザの方が良いかしらね」
カルパナは少し意見が違うようだ。白ワインをチビチビ飲みながら、ピザをパクパク食べている。
「これはこれで良いと思うよ、サビちゃん。生地が柔らかいから、歯の弱い人でも大丈夫そうだし。今はもう、本物の小麦粉の味を知っている人なんて少数派だから、気にしなくても良いんじゃないかな」
ゴパルが素直に同意した。
「私も汎用小麦粉に慣れてしまっています。普通に美味しいですよ、このピザ。それにピザってワインとじゃなくて、チソを飲む習慣がありますよね。もしくはビールでしょうか」
アバヤ医師がニヤニヤしながらゴパルにツッコミを入れた。
「炭酸飲料とピザとか、成人病一直線だぞ。トマトソースは野菜として考えるなよ。あくまでもソースだからな。バジルなんかの香草も、あくまでも香りつけのために使っているだけだ。食物繊維量としては少ないぞ」
ゴパルが自身の腹を見下ろしてから、深く同意した。
「ですよね。気をつけます。博士課程のラメシュ達三人もピザとチソが好きですから、注意しておきますよ」
レカは黙々とピザを食べている。サビーナやアバヤ医師がレカの顔を覗き込もうとすると、顔を逸らした。今は彼女にとって都合の悪い話題なのだろう。運動不足という点では、レカもアバヤ医師も似たようなものである。
サビーナが最初にピザを食べ終えて席から立ち上がった。食器を手早く洗ってから、調理台の上に次のピザの材料を乗せていく。
「それじゃあ、次は白ピザね。作り方は同じで、具材がチーズに変わるだけよ。今回は、レカちゃんのリテパニ酪農産の硬質チーズを三種類使うわね」
そして、まだピザを食べている最中のレカに文句を言った。
「ほら、レカっち。さっさと食べなさい。あたしの白ワインがぬるくなってしまうでしょ」
「もがもが……うるせー」
結局、硬質チーズ三種類乗せのピザを焼いた後に、さらにもう一枚焼いたサビーナであった。
「これはピザ生地の縁を巻いて、その中に棒状のチーズを挟んだものね。チーズだらけピザってところね。乗せている具材はマリナーラピザに似ているかな」
このピザは赤ピザと同じく、たっぷりのトマトソースが塗られていて、硬質チーズも加えられている。
しかし、これにスパイシーオイルをたっぷりと加えるサビーナだ。これは、粗びきした赤唐辛子粉をオリーブオイルに漬けこんだものである。
「他の香辛料を併せて使っても良いけれど、クミンやターメリックは使わない方が良いわね。辛くするとワインに合いにくくなるんだけど、チソなら問題ないわよ。用心して食べなさい。成人病一直線だから」
ゴパルが自身の腹に手を添えながら両目を閉じた。
「う……何という料理を出してくるんですかもう、サビーナさんは」
サビーナがニコニコしながらウインクした。
「あら。じゃあタバスコぶちまけて台無しにしてしまおうかしらね」
フランスのピザ屋には、タバスコを置いていない事が多い。唐辛子を漬け込んだオリーブ油は置いてあるが。
結局、白ピザと辛いピザは、ここに集まった全員では食べきれなかった。持ち帰り用の箱を用意して嬉しそうなレカである。
「仕方ないなーもー。余るともったいないからねー、持ち帰るー」
調理台を手早く片づけたサビーナが、満腹で口をパクパクさせているゴパルに聞いた。隣でアバヤ医師も同じパクパクをしているのだが、彼は無視したようだ。
「ねえ、ゴパル先生。前に言っていたけど、自家製の天然酵母ってどうやって作るの? このビール酵母でも十分膨らむけれど、色々試してみたいのよ。教えてくれるかしら」
イスに座っていたゴパルが、よっこらせと上体を起こして了解した。
「ああ、そうでしたね。それじゃあ、お腹が落ち着くまでの間、天然酵母の採集と種菌作りをしてみましょうか」




