リテパニ酪農
チヤ休憩をしてから、カルパナのバイクの荷台に乗ってリテパニ酪農へ向かうゴパルだ。背中にはラプシの実が入った袋を背負っている。
橋を渡った先にあるネパール軍の駐屯地前にある茶店では、軍の偉い人がチヤを飲んでいた。その彼がカルパナと後ろのゴパルを見て、ニヤニヤしながら手を振ってきた。
「よお、カルパナさん。最近は武勇伝を聞かないぞ。何か仕出かしてくれや」
カルパナがカマボコ型のハンプを、ゆっくりと徐行して乗り越えていく。高さ十五センチくらいなので、結構大きく上下に揺れて、危うくバイクから落ちそうになっているゴパルだ。
カルパナが穏やかながらも冷めた口調で答えた。
「こんにちは。有名人にはなりたくありませんので、これで失礼しますね」
「おおう、もったいない、もったいないぞ。もっとこう、ほら、なんだ……あっと笑えるようなヤツをだな」
「ではまたー」
さっさとバイクで走り去っていくカルパナであった。
リテパニ酪農では事前にカルパナから連絡が届いていたようだ。レカとラジェシュの二人が駐車場まで出てきて迎えてくれた。バイクから降りたゴパルに、ラジェシュが申し訳なさそうに礼を述べた。
「わざわざすいません、ゴパル先生。ラプシありがとうございます。引きこもりレカが、うちの酪農場から出ないばっかりに、お手数をかけてしまいました」
口調は至極真っ当なのだが、やはり無駄な動きが混じっている。弱い癖がある長い黒髪を簡単に束ねた先が、ヒョコヒョコ跳ね回っていた。
レカが早速スマホ盾を構えて、ゴパルににじり寄ってくる。
「うるさい、バカ兄ー。紅茶の収穫と製茶作業まで、わたしにさせるからだー。体力ないの分かってるだろー」
そう言いながら、ラプシが入った袋に手をかけた。
「ゴパルせんせー、どうもありがとね」
スマホ盾のせいでゴパルからは彼女の目元が見えないのだが、口調には感謝の気持ちがこもっている……と思う事にしたゴパルであった。
「いえいえ、このくらいでしたら何ともありませんよ、レカさん。むしろ、カルパナさんに礼を述べた方が良いのでは。軍の駐屯地でからかわれてしまいましたし」
カルパナが二人分のヘルメットをバイクのハンドルに引っ掛けて、困ったような表情で駐輪場から戻ってきた。
「あの軍人さんは、バッタライ家の分家筋の方ですので……それよりもレカちゃん、ラプシの実の量はそのくらいで良かったかな?」
レカがラジェシュと顔を見合わせてニッコリと笑った。いつものニマニマ笑いではないので新鮮に感じるゴパルだ。兄妹そろって挙動不審な動きをしながらカルパナに礼を述べた。
「これだけあれば、親戚連中に十分行き渡るよー。ありがとねーカルちゃん」
そう言いながら、袋を兄のラジェシュに押しつけている。
「秋茶も買っていくのよねー? 兄ちゃんー、カルちゃん用に一つ、製茶したばかりのヤツを用意してよー」
ラジェシュが軽いジト目になって了解した。
「そんなに作業服に着替えるのが面倒臭いのかよ。まあ、いいや。カルパナさん、小パックを一つで良いのかい?」
カルパナがニコニコしながらうなずいた。
「はい。この後のピザ屋で使うだけですので、少量で十分ですよ。パメの家で必要な紅茶は、また後日注文しますね」
ラジェシュが少し考えてから、ニヤニヤ顔をレカに向けた。
「それじゃあ、我が家のやんごとなきお嬢様よ。俺が紅茶を袋詰めしている間に、客人を紅茶畑に案内して時間を潰してくだしゃりませ」
微妙にサンスクリット語を混ぜてからかうラジェシュだ。レカが仏頂面に変わったが、渋々了解する。
「……仕方無いなあーもう~。それじゃあ案内するから行きましょー」




