パメ
翌日、セヌワの宿を出発してポカラへ向かうゴパルだ。カルナが見送ってくれた。相変わらず口元がへの字になっているが。
「カルパナさん達によろしく言っておいて。戻りは四人に増えるのよね。まさか全員デブじゃないでしょうね」
ゴパルが垂れ目を細めた。思ったよりも袋が大きくて、ゴパルのリュックサックには入りきらなかったようだ。仕方なく袋の口を結んで輪を作り、それを頭に引っ掛けている。
「ははは……太っているのは私とダナ君の二人だけですよ。ラメシュ君とスルヤ君は、至って普通の体型です。では行ってきますね」
ポカラのパメに到着したのは昼過ぎになってからだった。早速、カルパナ種苗店に立ち寄るゴパルだ。前もってチャットで到着予定時刻を知らせてあったので、カルパナも店に居た。
「こんにちは、ゴパル先生。ラプシの実を運んでくださって、ありがとうございます。私のバイクで、バスパークまで迎えに行けば良かったですね」
ゴパルが袋をビシュヌ番頭に手渡して、ほっと息をついた。
「いいえ。袋が大きいので、バイクの二人乗りは危険ですよ。バスパークにはタクシーが留まっていますから、それを使った方が安全です」
仕方なく納得するカルパナであった。ビシュヌ番頭が袋をパメの家へ運んでいくのを見送りながら、ゴパルがカルパナに聞いた。
「結構な量のラプシですが、あれを全部巡礼者の食事に使うのですか?」
カルパナが穏やかな表情になって、少し否定的に首を振った。
「さすがに多いですね。レカちゃんにも分けてから、サビちゃんに相談してみます。アチャールの他に、何かお菓子作りで使えるかもしれませんし。そうそう、カルナちゃんに、無事に受け取ったと知らせなきゃ」
スマホを取り出してチャットで書き込み始めた。ゴパルもスマホを取り出して、撮影した動画や写真を再確認する。
「レカさんに頼まれていたそうで、ラプシ収穫の写真と動画を撮ってきました。レカさんに今送信しても構いませんよね」
カルパナがゴパルの隣にやって来て、身を寄せてきた。ドギマギしているゴパルに気がつかない様子で、熱心に動画と写真を見ている。
「そうですね。上手に撮れていますよ。ラプシの木って背が高いので、収穫するのが大変なんですよね。私が子供の頃もこんな風に、木に登って虫取り網を振り回して実を集めていました」
思わずゴパルの頭の中で、動画の中で収穫作業している作業員の顔がカルパナに脳内変換されてしまった。ちなみにゴパルは子供の頃から運動が苦手だったので、こういった作業をした事が無い。
動画の再生が終わって、カルパナが何か思いついたようだ。ポンと両手を合わせて、笑顔をゴパルに向けた。かなりの至近距離である。
「そうだ。これからレカちゃんの家にバイクで行きましょうか。ラプシの実を届けて、秋茶を少し買ってきましょう。ピザ屋でピザの試食をする時、私はバイクを運転しますのでワインを今回飲めません」
ゴパルが、たじろぎながらも素直にうなずいた。同時に一歩退いてカルパナから距離をとる。
「なるほど。ええと……今回は生地が分厚いピザでしたっけ。お腹に溜まりそうですね」
クスクス笑うカルパナだ。少しいたずらっぽい表情になっている。
「ですので今回はアバヤ先生も呼んでいますよ。交通事故騒動の治療がようやく一区切りついたそうです。強力隊長のサンディプさんは、もう退院しているのですよね?」
ゴパルが思い出し笑いを浮かべながらうなずいた。
「はい。もう、いつもの強力仕事をしていますよ。私がウィスキーを一本進呈したのですが、彼が一人で全部飲んでしまいまして。仲間の強力達とケンカ騒ぎになってしまうくらい元気ですね」
結局、もう一本買う事になったゴパルであった。酒のツマミ料理もゴパルが負担したので、ちょっとした宴会になってしまったのであった。
「おかげで、私の財布が大ピンチです。兄にまた、お金を恵んでもらいますよ」
カルパナが小首をかしげた。
「前から思っていたのですが……大学の先生なのに給料が少ないのは不思議ですね」
ゴパルが深刻な表情になって両目を閉じた。
「ただの助手ですから……こんなものですよ。今晩の飛行機で、首都から三人の博士課程も到着します。彼らの出費の一部には領収書が出ませんから、私が支払う事になりますね」
内心で小さなため息を漏らすゴパルだ。
「兄からお金を恵んでもらうのは、いつもの事ですのでご心配なく」
そう言われても不安そうな表情をしているカルパナであった。ゴパルが話題を変える事にした。
「そうだ。リテパニ酪農へ行く前に、倉庫の土ボカシを見てみましょう。そろそろ発酵が落ち着いた頃だと思いますよ」
カルパナが二重まぶたの黒褐色の瞳をキラキラ輝かせた。
「そうでした。そろそろですね。確認してみましょうっ」




