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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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小型四駆便

 ナヤプルのバスパークには、既に数台の小型四駆車とミニバスがエンジンをかけていた。それぞれの運転手が、ドアを手でバンバン叩いて客呼びをしている。

 そろそろ定員満席になりそうな小型四駆便を見つけて、それに乗り込む。


 リュックサックは小型四駆車の屋上にある、荷物入れの柵に入れて、備えつけの紐で縛って固定した。

 これより先は、舗装されていない泥道で、しかも山道になるので、荷物が振り落とされる恐れがある。そのため、しっかりと固定する必要があるのだ。途中で落ちても、それは乗客の不手際のせいになる。賠償はされない。

 屋上の荷物入れの柵には、防水袋に入った食料や砂糖等の調味料の他に、鶏が収められた竹カゴ、子山羊が紐で固定されていた。

 ゴパルがリュックサックの固定作業をしていると、鶏と子山羊とに目が合う。

「私達も、道が滑って、崖からモディ川まで転がり落ちたら、君達と来世まで一緒の旅をする事になるね。お互いに、無事に目的地のガンドルンへ着けると良いな」


 ゴパルが小型四駆車に乗り込むと、ほどなくして満員になった。運転手がドアをバンバン叩くのを止め、運転席に座る。どうやら、この小型四駆車が最初に出発に至ったようである。

 ミニバスは、まだ半分しか乗客が集まっていない様子なので、出発が遅れそうだ。


 小型四駆車はかなり使い込まれた車体とエンジンのようで、今ひとつ加速度が感じられない。車体からも、ギシギシと軋む音が鳴り続いている。

 それでも、足元から地面は見えないし、天井から雨漏りも起きていない。

 客席は助手席を含めると七席だが、詰め込むだけ詰め込んでいるので、定員は十名になっているようだった。

 助手席と運転席の横にある物入れと、ギアボックスまでを含めて、二人分の座席となっている。他には、後部座席のドアのステップも、二人分の座席になっている。

 晴れていれば、屋上に追加で数名乗せるのだろうな、と思うゴパル。天井からは、鶏と子山羊の鳴き声がしてくる。


 走り出すと、すぐにエンジンがウンウン唸り出した。泥だらけの悪路なので、走りにくいのだろう。それでも、運転手は手慣れた運転で、泥道をゆっくり走り、クラクションを鳴らして道を歩く人達を避けて行く。

 途中行きつけの居酒屋のオヤジに、何か叫んで挨拶を交わしてから、本格的に運転を始めた。多分、現地のグルン語なのだろう。ゴパルには聞き取れなかった。


 泥道の商店街を過ぎると、すぐに濁流を渡る吊り橋に差し掛かった。これは、車が一台だけ通行できる幅しかない。

 吊り橋は、既に山から下りて来たミニバスが渡っている最中だったので、小型四駆車は、道の端に車を寄せて待つ。

 ミニバスは、車体の下半分が、見事に泥まみれになっていた。ミニバスの運転手が、クラクションを鳴らして、小型四駆車の運転手に挨拶をしていく。

 ミニバスが吊り橋を通り過ぎたので、今度はゴパルが乗った小型四駆車が渡る番だ。

 吊り橋はかなり頑丈な造りになっていて、ミニバスや小型四駆車が乗り入れても大して揺れなかった。十秒もかからずにスイっと橋を渡り、泥道をモディ川の上流に向かって走っていく。


 しかし、すぐに停車してしまった。検問である。

 警官が運転手から乗車名簿を受け取り、乗客の顔を見ながら、点呼して確認していく。

 そんな作業を見ていたゴパルであったが、飽きたのか検問所の建物に視線を向けた。

 ネパール語と英語で書かれた横長の看板があり、十数名のリュックサックを担いだ欧米人観光客が、入域許可証を窓口で提示している。近くにはミニバスが停まっていたので、これに乗っていたのだろう。


 入域許可証は、首都やポカラの国立公園管理事務所で、午前中に申請して、その日の午後に取得する。観光シーズン中は、申請数が多いので、夜まで待たされる事があるが。手数料と写真二枚が必要だ。

 ポカラの管理事務所は、ルネサンスホテルの近くにあり、代理申請と受け取りもできる。

 検問所の看板には、ビレタンティという地名が記載されていた。ここからガンドルン方面と、ゴレパニ方面への登山道に分岐する。

 車道はゴレパニ方面には伸びていないため、そちらへ向かう観光客は、徒歩で登っていくしかない。高低差が千七百メートルある坂だが。

 スマホで観光情報を調べると、ゴレパニも有名な観光地のようだ。

「プーン山頂の展望台から眺める風景が人気なのか……まあ、今は仕事を優先しよう」

 警官による検問が終了した。タバコを吸い終えた運転手が、再びエンジンをかけた。軽くクラクションを鳴らし、ゆっくりと泥を跳ね上げながら、小型四駆便が、ガンドルンへ向けて走り出していく。

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