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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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二十四時間営業のピザ屋の厨房

 カルパナ種苗店からレイクサイドのピザ屋まで、歩いて向かうゴパル達三人だ。レイクサイド地区に入ると、途端に人通りが増えて店の数も多くなってくる。

 ゴパルは大きな袋を背負っているので、行商人か何かと間違われてしまった。カルパナが一緒に同行しているせいもあったのだろう、あちらこちらの雑貨店や喫茶店の店主が、ゴパルに指をさして聞いてくる。それに一つ一つ丁寧に説明を返していくカルパナであった。

 ゴパルが耳を赤くしながら頭をかいた。

「ははは……確かに干しキノコの香ばしい香りがしますよね」

 一方のカルナは上機嫌だ。

「がんばれゴパル先生。キノコの宣伝にちょうど良いわ」


 そうこうする内に、ピザ屋に到着した。既に店先にコックコート姿のサビーナが立っていて、ニヤニヤ笑いながらゴパル達を出迎えてくれた。

 料理をしていたのか、両手には白くて薄いゴム手袋をしている。頭にも同じく白い帽子を被っていて、髪を中に入れていた。

「厨房の中に居ても、ゴパル君の居場所がリアルタイムで分かったわよ。どんだけ目立ってるのよ、この牛糞先生は」

 サビーナの背中からレカが顔を出して、ニンマリと笑っている。早速スマホ盾を装備して、大荷物を担いでいるゴパルに照準を合わせた。

「やほ~カルナちゃん。ゴパルせんせー、行商おつかれ~」


 店内は相変わらずの混雑ぶりだったが、奥の会員席はまだ空いていた。数名の会員客と手を振って挨拶を交わしたゴパルが、小首をかしげる。

「あれ? 今回もアバヤ先生は不在ですか。こういうイベントには、顔を出すと思っていたのですが」

 サビーナが軽いジト目になって教えてくれた。

「あのヤブ医者は今頃病院で大忙しのはずよ。ええと、ほら先日会った強力の……サンディプさんだっけ、彼が荷運びで参加してた登山隊がね、山に登る前に交通事故に遭ったそうなのよ。死んだり重傷になった人は出なかったそうだけど、皆病院送りになってるわ」

 ゴパルが垂れ目を大きく見開いて驚いている。

「ええっ? そんな大事になっていたのですか。サンディプさんは大丈夫なんですか?」

 サビーナが腰に両手を当てて、ウインクして微笑んだ。

「軽いねんざだそうよ。念のために検査を受けてるけど」

 ほっとした表情になるゴパルだ。

「そうですか、良かった。では、明日にでもアバヤ先生の病院に見舞いに行ってきますね」

「ヤブ医者によろしく言っておいて、ゴパル君。それよりも……」

 サビーナの二重まぶたの黒褐色の瞳がキラキラ輝き始めた。もちろん視線の先は、ゴパルが担いでいるキノコ袋だ。

「思ったよりもたくさん採れたのね。荷物運びごくろうさま、ゴパル君」

 サビーナが厨房スタッフに命じて、ゴパルが担いでいたキノコ入りの袋を全て受け取った。早速袋を開けて、中にある二種の干しキノコを摘まみあげてニコニコしている。

「クロラッパタケか。良い感じに干されてるわね。お、エノキタケもあるんだ。カルナちゃん、言い値で全量買うわよ」


 カルナがカルパナに視線を向けた。嬉しさ半分、予想外半分といった表情になっている。

「全量お買い上げでした。カルパナさん」

 カルパナが微笑んで応えてから、サビーナにお願いした。

「パメの家でも、巡礼者向けに少し出そうと思ってるの。百グラムほど分けてもらえないかな」

 サビーナが快諾した。すぐに厨房スタッフに命令を下す。

「もちろんよ。おーい、カルちゃん用に二百グラム別に取っておきなさい」

 ウイ、シェフ! と返事が厨房から返ってきた。もちろんネパール語訛りだが。


 サビーナに案内されてゴパル達が厨房に入ると、真っ先に赤レンガ造りの石窯が目に留まった。

「早くもススが付いて風合いが出てきていますね」

 ゴパルが石窯に触れようとしたので、慌てて手を引っ張って止めるサビーナだ。

「ちょ、ちょっと! 火が入ってるから触れると大ヤケドするわよっ」

 レカもスマホ盾を振り回して慌てている。

「耐火レンガだけど熱は遮断しないー! あぶねーゴパルせんせー」 


挿絵(By みてみん)


 両手を引っ込めて謝るゴパルだ。

「すいません、軽率でした。危うく、またアバヤ先生の世話になるところでしたね」

 カルパナとカルナはキョトンとした顔をしている。彼女達も知らなかったらしい。サビーナがゴパルの手を離して、つけていた薄手のゴム手袋を外して捨てた。ゴパルの服に触れてしまったせいもあるのだろう。

「これからは、厨房に入る時に全員が作業服を着る規則にするか。手袋を取り替えるのって面倒なのよね」

 いったん手を洗ってから新しいゴム手袋を両手にはめる。

「石窯ができてから、客が勝手に入ってきてヤケドをする事故が増えてるのよ。特に学生が多いわね」

 レカも挙動不審な動きを止めた。

「そうなんだー。石窯を柵で囲った方が良いかもー」

 カルナが腕組みをして考え込み始めた。

「アンナプルナ街道の民宿で作る場合は、その点を対策しないといけないですね。クソガキばかりだし」


 レカがスマホのカメラを設定して、さらに厨房内の固定カメラを調整し始めた。また挙動不審な動きが生じている。

「この店じゃあ、万引きや暴れる客も居るからねー。二十四時間カメラで撮影して、その映像をライブ配信してるよー。警察も逮捕しやすくなったって喜んでるー」

 サビーナが身支度を整え終えて、白い前掛けエプロンを手でパンと叩いた。

「店頭で売っている物が配信映像で確認できるから、客からも好評ね。混雑の具合も分かるし。さて、それじゃあピザを焼きますか」

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