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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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スクランブルドエッグ続編

 そんな無言の威圧合戦が繰り広げられているとは知らないサビーナだ。ボウルに卵を割り入れてかき混ぜながら話を続けた。手袋を別の新しい使い捨てに取り替えている。

「今回はフランス方式だけで作るわね。作り方は前回と同じだから説明しないわよ。燻製サーモンだけど、これを手で細かくちぎっておく事。小骨が混じってる事があるから、それを取り除く」

 これとは別に、二センチほどの長さの燻製サーモンを切り取って、盛りつけ皿の中央に置いた。それを二皿分だけ用意する。

「火を通すのが好きな人は、オーブンやフライパンを使って好みの状態にしなさい。今回はそのまま。小骨が無さそうな部位を使った方が良いわね」

 サビーナが細かくちぎった燻製サーモンを、ボウルの中の卵液に加えて混ぜた。これにコショウを振る。

「塩は振らなくても問題ないわよ。燻製サーモン自体に塩分があるから。後は、好みでタマネギのみじん切りや、ハーブに香辛料を加えると良いわね。今回は何も無し。ズッキーニの煮込みがあるし」


 ここでサビーナがズッキーニの煮込みをしている鍋のフタを開けて、煮込み具合を確かめた。使い捨てのスプーンを使って、煮汁の味も確認している。その表情が満足そうなものになった。レカに鍋を接写するように合図を送る。

 レカがスマホカメラで鍋の状態を接写している間に説明をした。

「このくらいの汁の量なら構わないけれど、もしも量が多かったら、フタを開けて中火で煮込むと良いわよ。ありがとレカっち。それじゃあフタを閉めて弱火にしておくわね」


 サビーナが別のコンロに点火して、湯煎用の鍋をかけた。沸騰し始めると火を弱め、湯煎用の鍋に燻製サーモン入りの卵液が入ったボウルを乗せた。

 これを泡だて器でかき混ぜてクリーム状にしていく。フランス方式のスクランブルドエッグの作り方だ。


 ボウルをかき混ぜながら、サビーナが盛りつけ皿の上の燻製サーモンの切り身に視線を投げた。

「ネパールじゃニジマスが養殖されているから、ニジマスの燻製で試してみたいわね。ニジマスは風味が繊細だから、冷燻でやってみるつもりよ」

 作業を続けながら、視線をカルパナに向けた。

「場合によっては、ナウダンダにあるカルちゃんの小屋を借りるかもしれないわね。その時はよろしく」

 ナウダンダは標高1900メートルでガンドルンとほぼ同じだ。冬になっても雪は降らないが霜は降りる。

 カルパナがにこやかに答えた。

「うん、ぜひ借りてサビちゃん。過疎化が進んでるから、少しでも仕事が増えるのは大歓迎」

 ゴパルも興味を抱いた様子だ。

「なるほど。簡易の低温蔵という感じですね」


 レカがカルパナの陰に隠れながら、ゴパルに質問してきた。今はスマホで料理を撮影しているので、対ゴパル用の盾として使えないためだろう。

「ゴパルせんせー。ABCの低温蔵ってー、どこまで完成したのー?」

 ゴパルがキョトンとした表情になった。

「ABC……ですか? どこかで聞いたような」

 カルパナがレカの肩を支えながらクスクス笑った。

「アンナプルナ・ベース・キャンプの略称ですよ、ゴパル先生。アンナキャンプという呼び名は、あまりしません」


「え?」

 絶句するゴパルであった。確かに、アンナキャンプと呼ぼうと決めたのはゴパル本人だ。頭をかいて顔を赤くしている。

「そ、そういえば、民宿ナングロのアルビンさんも微妙な反応をしていたような気が……そ、そうだったのか」

 カルパナがクスクス笑いながら指摘を続けた。

「ちなみに、マチャプチャレ・ベース・キャンプの略称はMBCですね」

 あうあう言っているゴパルに、サビーナが肩を震わせながら笑いを堪えている。

「カルナちゃんの話だと、ゴパル君がアンナキャンプ、アンナキャンプって言うから、周りの人も察してアンナキャンプって言ってたらしいわよ」

 ゴパルが顔を赤くしたまま、冷や汗を流し始めている。やがて蚊の鳴くような声で辛うじて反応した。

「へ、部屋へ一度戻ってもいいですか……?」

 しかし、無慈悲にもゴパルの願いは却下されてしまうのであった。料理ができあがったので仕方がない。撮影と試食の時間だ。


 出来上がったスクランブルドエッグを、サビーナが二つの盛りつけ皿に均等に取り分けていく。燻製サーモンの切り身を取り囲むような盛りつけだ。これに、ちぎったイタリアンパセリを振りかけていく。

「これで完成。ズッキーニの煮込みも仕上げにかかるかな」

 火を止めてから、これも二つの盛りつけ皿に均等に取り分けていく。そして最後にレカが持ってきた自家製硬質チーズを、おろし器にかけて粉にした。それを景気よく全量、ズッキーニの煮込みの上に振りかけていく。

「ん。こっちも完成ね」


 サビーナが含み笑いを浮かべながらゴパルを見据えた。嫌な予感がゴパルの背筋を走っていく。

「見ての通り、客席も厨房も混雑してるのよね。試食するなら、静かな場所にすべきだと思わない? ゴパル君。さっき、部屋に戻りたいとか言ってたよね」

 理解したゴパルであった。振り回されっぱなしである。仕方なく両手を上げて降参のポーズをとった。

「ハワス、サビーナさん。私の部屋で良ければ撮影に使ってください」

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