ズッキーニの煮込み
サビーナに急かされるようにゴパル達が厨房の中へ入った。
今は営業中なので、ゴパル達含めて全員が頭を包む袋状の帽子をしたコックコート姿だ。さすがにマスクまではしていないが。サビーナはその姿に加えて、両手には使い捨ての手袋をしている。
サビーナが卓上コンロにガスボンベを入れて、点火するかどうか確認した。
「ん。点火するわね。それじゃあ、先にズッキーニの煮込みから始めるわよ」
レカがスマホで撮影し始めたのを確認してから、サビーナが調理台の上に準備してあったズッキーニを手に取った。
「カルちゃんちのズッキーニがそろそろ旬を終えるから、最後にズッキーニを丸ごと料理する事にしたのよ。今回も撮影用だから、二人分の分量でするわね」
レカが不満そうに頬を膨らませているが、軽く無視するサビーナだ。
調理台の上にあるズッキーニの実は、どれも大きくはなかった。さらに花や新葉、それに芽に近い部位の茎を調理台の上に乗せていく。
「さすがにポカラも涼しくなってきたから、実も大きく育たなくなるのよ。家庭菜園だったらこれでも十分使えるけれどね。今回は全部で五百グラムくらい使ってる。じゃあ、洗うか」
サビーナが手袋をしたままで茎と新葉を手に取り、それらを水道水で洗い始めた。茎と葉には鋭いトゲが生えているので、洗う際にこすり落としている。
「イラクサの下処理と同じね。この時期の茎は固い筋がたくさん入っているから、茎の付け根の方から筋を取る事」
洗ってトゲと茎の筋を落としたものを、流し台のザルの中に入れて水切りをする。続いて、半分に切ったタマネギとトマト一個、ジャガイモを二個、それとミントを数本用意した。
「タマネギとミントは適当にみじん切りに。トマトは半分に切って、すりおろす。ジャガイモは皮をむいて四つ切りにね」
あっという間に包丁を使ってみじん切りにし、おろし器を使ってトマトをペーストにしてしまった。ニンニクを二片取り出して皮をむき、包丁の腹を使って押し潰していく。
卓上コンロの上に煮込み用の鍋を置き、オリーブ油を大さじ四杯ほど垂らして、みじん切りにしたタマネギと押し潰したニンニク片を加えた。コンロを点火して弱火にし、炒め始める。
「タマネギが柔らかくなったら、少しだけ火を強くしてズッキーニを炒めるんだけど……固い茎から先に炒めた方が良いわね。その次に新葉。ジャガイモを加えて、最後に花と実かな」
レカが挙動不審な動きをしながら撮影している。また食事を抜いて備えてきたのだろうか。
鍋に順々に具材を入れて炒めてしばらくすると、火が通ってしんなりとしてきた。
「こんなものかな。それじゃあ、トマトのペーストと、みじん切りにしたミントを加えるか。これは煮込み料理だから、野菜のダシ汁もコップ一杯加えるわね。無ければ水でも構わないわよ」
ダシ汁を鍋に入れて、軽くかき混ぜてからフタをした。
「このまま煮込んで、野菜が柔らかく煮えれば完成。煮込んでいる途中で必要なら水を加えなさい」
サビーナが軽く首と肩を回して背伸びをした。
「んー……毎日大きな会食パーティが続いてるから、さすがに疲れる。手下のシェフが育ってきているから、来年から少し楽になりそうだけど」
(手下って言い切ったよ、サビーナさん……)
ゴパルが思わず引いている。
レカの方を見ると、スマホで撮影しながらゴパルにジト目を向けてきた。空いている手で、ジャンケンのチョキのような仕草をする。
(あ。編集でカットするって事か。作業が面倒なんだろうな、顔に出てるよレカさん)
一方、カルパナはニコニコしながらサビーナの料理を眺めている。
そんな三人にサビーナが微笑んで、調理台の上に卵と燻製サーモンを乗せた。
「それじゃあ煮込んでいる間に、燻製サーモン入りのスクランブルドエッグでも作るか。評判が良かったみたいでね」
作業を続けながら話す。
「ラビン協会長さんが、民泊サービスをやってる奥様連合から続編の依頼を受けたの。それで今回こうやって撮影してるってわけ」
そして、軽くジト目になった。
「まったく……余計な仕事を持ってくるんじゃないわよ。あたしは早く石窯でピザを焼いてみたいのにっ」
レカがさらにジト目になって、指で作ったチョキを振り回し始めた。撮影中なので喚いてはいないのだが。ゴパルがカルパナにそっと告げた。
「すいません、カルパナさん。レカさんが暴れだしそうです。なだめてあげてください」
カルパナもレカの挙動不審な動きに気づいていたようだ。真面目な表情になってゴパルにうなずいた。
「そうですね。ですが唐辛子スプレーを持ってきていますから、暴れだしてもすぐに収拾つきますよ」
その気配を察したのか、レカがニンマリと笑ってポケットから唐辛子スプレーを取り出した。ゴパルとカルパナが思わず一歩引く。冷や汗をかくゴパルだ。
「量産されてるじゃないですか……恐るべしポカラ工業大学」




