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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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ルネサンスホテル

 夕方になっていたので、ルネサンスホテルも外国人観光客を中心にして賑わい始めていた。既に十数名ほどがロビー内のソファー等で寛いでいる。

「ビュッフェの開始まで、もうしばらくお待ちください」

 給仕長が客に知らせた。そして客席スタッフを指揮して、ロビーにディナー用のビュッフェを並べ始めていく。

 ゴパルが並べられていく料理を眺めながら、給仕長に手を振って挨拶した。

「こんばんは、ギリラズ給仕長さん。ポカラ産のベーコンは出していない様子ですね。やはり評判が思わしくありませんか」

 給仕長が指揮をしながらゴパルに合掌して挨拶を返し、そして軽く肩をすくめた。

「そうですね。カリカリに炒めれば何とかなりそうですが、現状では輸入ベーコンを使った方が、客が喜びますね」

 まあ、当然の反応だろうなあ……と納得するゴパルであった。


 給仕長がカルパナやレカ達にも挨拶しながら、ゴパルに知らせた。

「ビュッフェ料理が一通りロビーへ出るまで、もう少しお待ちください。その後に厨房の一角で、サビーナ総料理長が撮影用の料理を始める段取りです」

 そう言って、少し残念そうな口調でゴパルに説明を続けた。

「今晩の料理はズッキーニの煮込みと、人気だったスクランブルドエッグの追加料理の二品を予定しています。家庭料理ですね。ゴパル先生の期待に沿えると良いのですが」

 ゴパルが明るく答えた。

「期待していますよ。首都に戻った際に、私が料理できる品目が増えますからね」


 給仕長がほっとした表情を浮かべた。

「ご自身で料理をするのですね。首都でもそろそろズッキーニが市場から退場する時期になりますので、料理するのでしたら早めにした方が良いと思います」

 素直に聞き入れるゴパルである。

「そうですね。気に留めておきましょう。ポカラでも、そろそろ旬から外れるのかな?」

 ゴパルがカルパナに視線を投げると、カルパナが穏やかな表情で答えてくれた。

「その通りですね。家庭菜園でしたら、もう少し長く栽培できますけれどね。今回の試食会で、今年の食べ納めという感じでしょうか」

 実のところゴパルの家では、ズッキーニは滅多に食べない野菜だ。代わりにカボチャや、カボチャの新芽を料理して食べている。そのため、ズッキーニ料理はゴパルの独壇場になりそうだ。

 その事を考えているのだろう。ゴパルがニコニコしている。

「へえ、そうなんですね。楽しみです」


 給仕長と話した後は、彼らの仕事の邪魔にならないように庭に出て、フェワ湖の夕日を眺める事にしたゴパル達であった。

 フェワ湖の北にはサランコットの丘があり夕日に赤く照らされている。その丘の上には、巨大なアンナプルナ連峰が同じくオレンジ色に染まっていた。

 三角形のマチャプチャレ峰は、その東半分が日陰になっていて、西半分が夕日に鈍く照らし出されている。

 ゴパルが感動しながら見つめた。

「うわあ……凄い景色ですね。ポカラが観光地になるわけだ」

 レカがポケーとした表情でマチャプチャレ峰を眺めながら、カルパナ越しでゴパルに教えてくれた。

「マルディベースキャンプまで登ればー、至近距離で魚のしっぽ山が拝めるわよー。私は二度と行かないけどー」

 カルパナがニコニコしながら補足説明をしてくれた。

「マチャプチャレ峰や、その西隣のマルディ峰への登山道の事ですよ、ゴパル先生。登頂は禁止されていますけれど、間近まで登ることはできるんです」

 カルパナがマチャプチャレ峰の直下にある山を指さした。山頂が森林限界を超えているので、かなり高い山だ。それがマルディ峰なのだろう。

「その終着点の一つがマルディベースキャンプです。正確にはマルディ上キャンプですね。下キャンプという場所もありますので。宿屋が少ないので、テントを持参した方が良いでですよ」


挿絵(By みてみん)


 ゴパルが小首をかしげてカルパナに聞いた。

「ですが、マチャプチャレ峰の南壁が見えるだけですよね。ポカラから見るのと変わらないような気がしますが」

 カルパナが微笑んだ。

「そうですね。森林限界の上ですので草原が広がっていますが、遊牧の羊や山羊だらけですし。家畜の糞が多く転がっていますから、生水は飲まない方が良いですよ」

 ちょっと引いているゴパルに、カルパナがクスクス笑いながら話を続けた。

「私は何度かキノコ狩りで登っています。マチャプチャレ峰の迫力を感じながら、ポカラの夜景を楽しむ場所でしょうか。天気が良ければインドの夜景もうっすらと見えますよ」


 そこへ、サビーナがコックコート姿のままで庭へやってきた。

「ふう、お待たせ。レカっち、今日も忙しいから厨房の中で料理するわね。しっかり撮影しなさいよ」

 レカがニンマリと笑って両手を振った。右手には、いつの間にか小さな袋を持っている。

「まかせろー。家から硬質チーズ持ってきたぞー」

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