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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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ナヤプル

 激流になっている沢を辿るように伸びている道を降りていく。急カーブが続く道が続き、急こう配の北斜面の森を抜けると、いきなり視界が開けた。


 今まで辿ってきた激流の沢が、さらに大きな激流の沢に接続している。ここまで大きいと、もはや川だなと思うゴパル。

 スマホで地図を確認すると、この大きな激流はモディ川と呼ばれている。上流は氷河があるアンナプルナ内院という事であった。

 これまでに降りてきた、道沿いの分水嶺からの沢は、モディ川の支流の一つという事になる。


 道は北斜面の崖の下なので、暗い日陰に包まれている。道端にはズラリと茶店が並んでいて、宿泊もできそうな店も多い。道そのものが、急こう配の山を切り開いて通した構造なので、路肩の幅も狭く、せいぜい二メートルほどしかない。

 これでは店を構えられないので、道端から崖下まで何本もの太い木の柱を立てて、空中展望台のように床を作り、強引に茶店の床面積を増やしている。空中庭園ならぬ、空中茶店だ。


挿絵(By みてみん)


 トラックや小型四駆、バイク等が、これらの茶店の前に停車している。人も多く行き来していて、リュックサックを背負った欧米人や、日本人の登山客の姿も多く見られる。

 彼らがいるせいで、道幅が圧迫されて通行に支障が生じている。停車場所も全て占拠されているので、ミニバスは崖下まで降りる脇道に入って行った。


 崖下には町ができていて、商店街のような表通りまである。舗装はされていないので泥道なのだが、人通りはこちらの方が遥かに多い。鉄筋コンクリート柱に赤レンガ壁、トタン屋根の民宿や食堂も何軒かある。トラックやバスも数台ほど停車していた。水田や畑まであり、活気がある町だ。

 ただし、すぐそばに激流と化したモディ川が轟音を立てて流れているが。

 川の対岸は、広い段々畑が広がった、のどかな農村になっている。その風景は、モディ川の川上方面へも続いている様子だ。激流が流れている割には、豊かな段々畑が続いているので、興味深く眺めるゴパルである。


 ミニバスがバスパークに停車した。早速、現地の民宿の客引きが数名ほどやって来た。十名の欧米人客が談笑しながら、ミニバスから降りていく。

 ゴパルも彼らに従ってミニバスを降りた。バスパークは舗装されていないので、泥だらけだ。欧米人達は、現地で待機していたガイドと合流して、早速、近くの茶店へ入っていく。

 ゴパルもミニバスの荷物庫から、自身のリュックサックを受け取った。防水仕様なので、この程度の雨であれば問題ない。そのリュックサックを背中に担いで、ナヤプルの商店街を軽く物色して回る。

 雑貨屋、薬屋、服屋、毛布やマットレス等の寝具屋、サンダル屋、床屋……外国人が運営する集落支援のボランティア事務所まである。


挿絵(By みてみん)


 居酒屋もあって、店のオヤジが冷蔵庫からビール瓶を取り出して、客に出しているのを見る。ツマミには、山羊の燻製干し肉を、生唐辛子と玉ネギ、ニンニクで炒めた料理を、アルミの皿に盛っている。鶏卵のオムレツ等も作っているようだ。

 その香ばしい匂いに、鼻先をクンクンさせるゴパルだ。匂いには、地酒や焼酎らしき成分も混じっている。

「うん。生活に必要な物は、一通り、このバザールで揃いそうだな。ポカラまで買い出しに行く必要は、それほど無さそうだ」

 さすがは観光地だなと感心するゴパルである。彼が現地調査に向かう地域は、僻地である事が多い。これほどの商店街は期待できない。

 雨が降っているので、とりあえず茶店を探す。すぐ近くに適当な茶店があったので、その店に入る事にした。この店もドアは無くて、店の内部が外から見えるオープンな造りだ。

 早速、かまどの前で寛いでいる、中年の男に声をかけた。

「やあ、オヤジさん。チヤを一つ頼むよ」

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