パメのタマネギ畑
「へえ。ポカラではこうやって苗を定植するんですね。カブレとはちょっと違うなあ」
ゴパルが興味深い表情で、タマネギの段々畑を見つめている。
畑の周囲には、放牧されている牛や山羊への対策として網柵が張り巡らされていた。その網柵にもたれながら、ゴパルとカルパナが畑の定植作業を見守っている。
いつものケシャブ達が定植作業を中断して、カルパナに合掌して挨拶してきた。カルパナも苦笑しながら合掌して挨拶を返す。そして、少し照れながらゴパルに顔を向けた。
「カブレも亜熱帯ですよね。どのあたりが違いますか?」
ゴパルもケシャブ達に合掌して答えた。
「子供の頃に手伝った程度なのですが、もっと小さな苗を使っていました。苗畑から移植用の畑まで距離がありましたので、運搬の手間を考えての事だと思います」
カルパナが興味深そうに聞いて、コメントした。
「多分、それですと苗の体力が乏しいかも知れません。農薬の世話になるかも。畑に種を直接まくのが一番良いのですけど……畑を使う期間がそれだけ延びてしまうのが難点ですね」
そして、視線を定植畑に戻した。
「ここでは、苗の草丈が二十から二十五センチになって、茎の太さが紙巻タバコくらいにまで育った段階で定植しています。根元が少し膨らみ始めているので、分かりやすいですよ」
作業しているケシャブ達をゴパルがよく見ると、タマネギ苗は根元に土がたくさん付いたままで定植されていた。
段々畑は水はけを良くするために、斜面に直角に低い畝が作られている。しかし数週間もすれば崩れて、平畝のような状態になるだろう。
タマネギ苗は列になって畝に定植されていて、列の間隔は三十センチほどだ。畝には深さ四センチくらいの溝を切り、タマネギ苗を十センチほどの間隔で差し込んで植えている。
一列(農業用語では一条)植え終わると、溝を土で埋めて軽く踏み固めていた。一坪当たり百二十本くらいの割合で定植している。
ゴパルが感心した。
「土が柔らかいですね。カブレの農地は土壌中の有機物が少ないので固いのですよ。管理機を使って土塊を粉砕する必要があります。その分、余計な燃料代がかかってしまいますね」
カルパナもケシャブ達の作業を見守りながら、穏やかな表情で答えた。フェワ湖から吹き上げてくる上昇気流が、彼女の少し癖のある黒髪をフワフワと持ち上げて揺らしている。
「この状態になるまで、月日が結構かかりましたけれどね。今でも雑草が多く生えてきて困っていますよ。タマネギの苗はとりわけ雑草に弱いですから。定植後に条間に敷き草をして、雑草の発芽を抑える工夫をするつもりです」
カルパナが無邪気な笑顔をゴパルに向けた。
「牛や山羊を入れれば除草も簡単なのですけれどね。一緒にタマネギの苗も食べてしまって、ついでにお腹を壊してしまうので使えません」
ゴパルが口元を大きく緩めた。
「さすがは、不浄の野菜ですね」
カルパナがクスクスと笑った。
「今では、当たり前のようによく食べる野菜になりましたけれどね。隣のインドですと、タマネギが不足すると暴動が起きるほど人気になっていますよね。ネパールでは、まだそこまで酷くはなっていませんけど」
実際にインドでは、タマネギが不足すると治安が悪化するというので、安定供給に力を入れている。
カルパナが段々畑の一角を指さした。大きめの水タンクが見える。
「沢水を集めて溜めているのですが、あれに生ゴミ液肥を混ぜて畑に散布する予定です。この畑ではまだKLを使った生ゴミボカシを本格使用していませんので、あまり効果は期待できないと思いますが……」
ゴパルが腕組みをして真面目な表情になった。
「生ゴミのままですと、野犬や野ネズミの被害に遭うというのが分かりましたし……土ボカシにして使った方が安全だと思います」
生ゴミを掘り起こして野犬や野ネズミが食べてしまう際に、近くのタマネギの苗まで掘り返してしまう恐れがある。カルパナがケシャブに手を振って、休憩するように合図を送った。
「掘り返されても大丈夫なように、栽培暦を調整すれば良いのですが……今回の反応を見てからでないと難しいですね」
カルパナが言ったのは、作物を栽培する前に生ゴミボカシを畑に施用する際の調整だ。元肥というのだが、ある程度生ゴミが土中で分解するまで待ってから作物の栽培を行う。
一応はゴパルと話し合って、この期間を三週間以上とる事にしていた。それで正しいかどうかを確認する事も、この栽培試験では重要だ。
しかし、今回のタマネギ畑では三週間前に生ゴミボカシを十分な量だけ用意できなかった。発酵中の段階のモノばかりだったためだ。
「急いでも良い事はありませんよ、カルパナさん。できるだけ安全で確実な方法で進めましょう」
カルパナが穏やかな表情で目元を緩めた。
「本当に商売向けな性格ではありませんね、ゴパル先生は」




