花ズッキーニのガスパチョ
事務所の応接間の隣がキッチンなので、そのまま全員が移動した。レカだけはブーブーと文句を垂れ流しているが。それでも固定カメラの準備を整えているのはさすがだ。
サビーナがズッキーニの花を一つ手に取った。黄色い花で、ごく小さなズッキーニが付いている。
「朝食シリーズとしては、これが最終回になるわね。ま、必要に応じて後で復活させるつもりだけど。これがズッキーニの花。カボチャの花とかキュウリやオクラの花でも代用できるわよ」
サビーナがカルナに視線を向けた。
「グルン族だったら、山ツツジの花を料理に使ったりするみたいね。ツツジの花でもできるはずよ」
カルナが小首をかしげた。
「ツツジの花はアチャールにするくらいですよ。ちょうどヒルが湧き始める時期と重なるから、晴れた日に集中して採ります。でも採集するのはイラクサが主になっちゃいますけど」
そして、ゴパルを見据えた。
「山羊先生は、調子に乗って森の中深くまで行っちゃダメだからね。迷子になったら、探すのは私達になるんだから」
サビーナやカルパナに対する言葉遣いと、自身に対するそれとが違うような気がするゴパルであった。
「それじゃあ、最初にガスパチョから作るわね」
サビーナが、ジャガイモ一個とニンニク一片とを電子レンジに入れて加熱する。しばらくすると火が通って柔らかくなったようだ。
電子レンジからそれらを取り出してミキサーに入れた。続いて、裏ごししたキュウリ、ピーマン、赤ピーマンを加える。最後にトマトピュレも加え、スイッチを入れた。
ミキサーのスイッチをいったん切り、木ベラを使って材料が粉砕されやすいように整える。そこへオリーブ油、白ワイン酢を加えてカイエンヌペッパーを少量振った。そして再度ミキサーのスイッチを入れ、完全に材料を粉砕する。
ペースト状になったのを確認してボウルに移した。これに水と牛乳を加える。さらにズッキーニのムースを冷蔵庫から取り出して混ぜた。
このムースは生クリームとコンソメ、ゼラチンを使ったものだ。これらを木ベラを使って混ぜていく。
混ぜながらサビーナが小首をかしげた。
「もう少しだけ生クリームを足すか」
生クリームはリテパニ酪農産で、液状というよりは半固体状になっているものだった。
「味見をしたい人数が多いから、薄めにして量を増やすわね。トマトソースや野菜のダシなんかを使うと、水っぽい味にならないわよ。あ、でも、スペイン風のガスパチョにこだわるなら、薄めずに濃い状態のままが良いかな」
最後に塩コショウを振って味を調える。そうして混ぜ終えたボウルを、氷水が入った大きなボウルの上に置いた。少し位置調整をしてから、冷蔵庫に入れる。
「ガスパチョだから、よく冷やしておかないとね。時期的に、雨期明け前にこの料理をやっておけば良かったわよね、失敗失敗」
ポカラも西暦太陽暦の十一月に入り、朝夕の気温が下がってきていた。今も日中は暖かいのだが、キンキンに冷えた料理を食べたいという気にはあまりならない気候だ。
「ガスパチョを冷やしている間に、もう一品作るわね。前回、目玉焼きとかスクランブルドエッグとかやったから、今回はエッグベネディクトにしましょう」
撮影中のレカにカメラ視線を送った。
「これも撮影用だから二人前ね」
「ぐぎゃぎゃぎゃー」




