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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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分水嶺

 食堂を通り過ぎると、一気に急こう配の下り坂に変わった。上から見ると、つづら折りとなった、見事な蛇行道が、底の見えない深い谷へ向かって伸びているのが分かる。落差は数百メートルありそうだ。

 ミニバスの観光客からも、感嘆の声が上がった。ゴパルも目を点にして唸っている。

「おお……凄いな。よくこんな坂に道を通したものだよ」


 ミニバスがエアブレーキと、電気自動車版のエンジンブレーキをかけながら道を下っていく。エンジン音が無いので、まるで滑走しているようにも感じられる。

 降り始めてすぐに、農業試験場の標識が目に入った。道端に鉄柵製の扉があり、一台のバイクが停車している。こんな場所に車を停車するのは危険なので、この扉は通用門のような物だろう。

 「そう言えば、分水嶺の辺りには、あちらこちらへ向かう道がタコ足のように伸びていたような」

 と、ゴパルが思い起こす。あのタコ足道の一本が、この農業試験場へ続く本道なのだろう。


 そんな鉄柵扉も、一秒後には後方に流れて、見えなくなってしまった。雨が再び強く振り始めた。窓ガラスに、幾筋もの雨だれが流れていく。

「こんな雨の多い農場だと、何かと大変だろうなあ」

 他人事ながら、同情するゴパルである。

 隣の席の米国人客は、熱心にスマホをかざして、下り坂の様子を撮影していた。コメントまで付けているので、こういう映像をよく撮影しているのかも知れない。

 雨雲が再び分厚くなってきて、この崖の上の方が、雲の中に隠れていく。農場がある場所も、雲の中に隠れ始めた。

 視線を転じて坂の底を探す。もう既に、かなりの高度を降りてきている。気圧差も生じていて、何度か耳抜きをする。

 ゴパルの垂れ目がピクリと反応した。谷底をようやく目視できたようだ。谷を流れている沢も、他の沢と同じく激流になっていた。

「ま、これだけ雨が降ればね。そろそろナヤプルに到着かな」

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