オリーブの実と油
オリーブの実は、緑色のままで収穫してサラダの材料に使ったりもする。今回は黒く熟した段階での収穫だ。サラダ用にも使えるのだが、主な目的はオリーブ油を搾るためである。
ラジェシュが枝に実っている黒い実を一つ摘み取った。それをゴパルに投げて渡す。大きめのブドウの実ほどの大きさだ。
「結構柔らかいでしょ。油がギッシリと詰まってますからね。で、風が吹いたりすると枝から落ちやすいんですよ。枝から離れた瞬間から油の劣化が始まるんで、注意しないといけないですね」
ラジェシュが言うには、今収穫しているオリーブの実でも長時間土の上に置いておくと、風味が悪くなって土臭くなるらしい。
地面に落ちている実を拾い集めて油を搾るのは、そういう理由で避けているという事だった。
「味にうるさいサビーナさんが睨みを利かせていますからね。下手な真似はできませんよ、ははは」
そのサビーナは、カルナと一緒に作業員にちょっかいを出しているようだ。カゴの中の実を勝手に選別している。
助けを求めて困惑の視線をラジェシュに送る作業員達だが、ラジェシュは曖昧な笑顔を浮かべるだけだ。
ゴパルがネットで調べた事を聞いてみた。
「ラジェシュさん。確かオリーブの収穫は、木の下に網を敷いて、木を揺すって実を振るい落す方法が多いって話ですが……ここでは手摘みなんですね」
ラジェシュが感心しながら答えた。
「へえ、よく調べましたね。大規模な農園では機械を使って木を振動させて、実を振るい落す方法ですね。うちは小規模なので手摘みですよ。その方が選別も楽になりますし」
オリーブは、新しく伸びた枝に翌年になって実をつける。収穫時に、この新しく伸びたばかりの枝を折ったり傷つけてしまうと、翌年の収穫が減ってしまうのだ。機械で木を激しく揺する方式では、この懸念がある。
ラジェシュが枝に手を伸ばしてニッコリと笑った。
「うちは酪農家ですからね。牛や水牛の乳搾りの要領で、枝をしごいて手摘みしています。実際、実の痛みが減りますね」
ネパールの農家は基本的に家畜を飼っている。乳搾りは毎日の日課だ。
レカが撮影に飽きたらしく、ゾンビのような足取りで戻ってきた。ゴパル除けに、スマホ盾をしっかりと装備したままだが。
「もう十分だー。戻ろー戻ろー」
続いて、カゴにちょっかいを出していたサビーナとカルナも飽きたらしく戻ってきた。
「油の味見をしに行きましょ。もう準備が整った頃よねっ」
「苦味で口の中がおかしくなってしまったわ。お水ちょうだい、お水」
ラジェシュが呆れた顔になって、腰に両手を当てた。
「お前らな……本当に遊びにきただけかよっ。ちょっとは収穫を手伝え、コラ」
結局、十数分ほどだけ収穫作業を手伝う事になった一同であった。それが終わってから、再びバイクとピックアップトラックとでリテパニ酪農へ戻る。
駐車場では、レカの父のクリシュナ社長が野良着姿で出迎えてくれた。
「お疲れさまでした、皆さん。チヤ休憩してください」




