キノコの種菌つくり その二
ゴパルが最初に、材料の説明を始めた。
「PDA培地で培養した菌糸を使って、種菌を作ります。今回のは、ヒラタケ、オイスターマッシュルーム、それにフクロタケで共通して使える仕様です」
ソルガムの種、PDA培地作りで使用したのと同じウィスキーボトル、綿の玉、七センチの正方形に切った紙、輪ゴム、アルコールランプ、消毒用アルコールを入れたハンドスプレー。これらを作業台の上に置いた。
「チャパコットのキノコハウスで使った種菌では、ソルガムの種では無くて小麦を使っていました。ですが、この小麦は、ゲノム編集や遺伝子組み換えを受けたものでしたので、今回はソルガムの種に変更しています」
ゴパルの説明を聞いたカルパナが、スマホで撮影を続けながら口元を緩めた。
「隠者様が怒りますからね。賢明な判断だと思いますよ」
ゴパルが頭をかいた。
「うっかりしていました。育種学研究室のラビさんに指摘されて気がつきました」
スバシュがメモを取りながら質問してきた。
「ゴパル先生。ソルガムはポカラでは栽培されていません。他に何かで代用できますか?」
ゴパルがソルガムの種を手に取った。
「粟でも代用できますが、粒が小さいのでちょっと扱いにくいですね。畑の空き地でソルガムを栽培して、その種を収穫した方が便利だと思いますよ」
スパシュとカルパナが顔を見合わせた。カルパナがすぐに了解する。
「分かりました、ゴパル先生。ソルガムでしたら栽培は楽だと聞いています。ジェシカさんに頼んで、在来種の種を輸入する事にしますね」
ゴパルがうなずいて、手に持っているソルガムの種をカルパナのスマホカメラに向けた。
「ソルガムの種ですが、最新の収穫のモノを使ってください。カビや虫食いの種は使えません。水分量の目安は十二%以下なので、カラカラに乾いた状態の物を用意してくださいね」
カルナもスバシュ達と一緒にメモを取り始めた。
「十二%か。黒カルダモンの件もあるし、乾燥場所を探す必要があるわね」
ゴパルがソルガムの種を持ったままで、話を続けた。
「一キロのソルガムの種に対して、二リットルの水を加えて、一晩漬けます」
申しわけ無さそうな口調になっていく。本来であれば、実演した方が良い。
「翌朝、水を吸ったソルガムの種を水洗いしてからザルに上げ、適当に水切りをします」
頭をかきながら、カルパナ達のメモに合わせて一呼吸置いた。
「これを圧力鍋に入れて、三十から四十分ほど蒸します。蒸し上がったら、きれいなタライ等に入れて広げて熱を冷まし、再び水切りをします」
次に、ウィスキーボトルを手に取った。
「ボトルですが、使う前に二回蒸して殺菌しておくと良いですよ」
これも実演はせずに、口頭だけの説明だ。
続いてウィスキーボトルに、水に漬けていないソルガムの種を入れていく。
「すいません。本当は蒸したソルガムの種を使うのですが、今回は作業イメージだけにしますね。頭の中で、これは蒸したソルガムの種だと思ってください。ええと、ボトルの四分の三まで詰めます。こんな感じですね」
ゴパルが、ウィスキーボトルに四分の三まで乾燥ソルガムの種を詰め込んだモノを見せた。これに綿栓をする。
「これを再び圧力鍋に入れて、121度で三十分間ほど蒸します」
ソルガムの種が入ったウィスキーボトルを軽く振った。チャラチャラと音がする。
「では、頭の中で蒸し終わった事にしましょう。熱を冷ましてから、この中にPDA培地を移植します。移植方法はこれから実演しますね」




