ポカラへの飛行機旅
さすがに西暦の太陽暦で十一月にもなると、乾期が本格化してきていた。首都からポカラへ飛ぶプロペラ機の窓から、見事なヒマラヤ山脈の白く輝く峰々が見える。
思わず窓に顔を貼りつけるゴパルであった。今回利用した飛行機は、片側一列の座席だったので眺めが良い。
「おお……よく見えるなあ」
飛行機が飛ぶ高度は六千メートル程なので、ゴパルの目の高さでヒマラヤ山脈が見えている。
(ええと、まずアレがバクタプールからよく見えるガネシュ連峰でしょ。その西がマナスル連峰か。ゴルカの町はどこかな?)
ゴルカはネパールを統一建国した王朝の本拠地である。丘の上に町があり、そこの展望台から見るマナスル連峰の雄姿は有名だ。
マナスル連峰への登山観光もできるのだが、アンナプルナ連峰ほど気楽に行ける環境では無い。民宿の数も少ないので、本格的なキャンプをしながらの登山になる。
飛行機はトリスリ川の上空を西へ向かって飛んでいるので、下を見ると見事な段々畑が山々に刻まれているのが分かる。マナスル連峰に近づくにつれて畑も小規模になり、ついには放牧地だけになる様子も見えた。
(マナスル連峰の森や畑では、まだ採集旅行をしていないなあ。何か面白い菌やキノコがあると良いな)
マナスル連峰を過ぎると、すぐにアンナプルナ連峰が見えてきた。実際、両者を分けているのは一本の川だけなので、ほとんど隣り合わせだ。
(お、アンナプルナ連峰だ。雲がかかってないぞ。やった)
初めて、連峰の全容を一望する事ができたゴパルであった。白と黒で描かれた、巨大な屏風のような山容だ。
マチャプチャレ峰がアンナプルナ連峰に繋がっている様子も見え、その頂上はまさに魚の尾の形をしている。
氷雪の下方には、冬枯れした大草原が帯状に広がり、黒緑色をした針葉樹帯との対比が美しい。針葉樹帯の下方に広がる広葉樹林帯では、黄葉や紅葉が最盛期を迎えていた。
ただ、日本の紅葉ほど色鮮やかでは無いが。その下方には、常緑樹林帯が斜面を覆い尽している。
段々畑や棚田では、稲や蕎麦、粟の収獲が終わっていた。空き地が目立つ。
(森が広がって、田畑が飲み込まれているなあ。耕作放棄地って、かなりの面積があるんだね)
そのように感じていると、飛行機が高度を下げ始めた。アンナプルナ連峰が、周辺の山々に次第に隠されていく。
(五分間も見れなかったか……残念。でもまあ、クマリ様に縁のある寺院にお参りして正解だったかな)
生神クマリが住んでいる地域は、タメル地区の南にある。そのため、バラジュ地区から気楽に行ってお参りができる距離だ。普段クマリ神は館の中に住んでいるので、ゴパルが目にする機会は無い。
すぐにポカラ盆地に差し掛かり、国際飛行場の上空を旋回しながら着陸態勢に入った。
ガコン!という音と衝撃と共に、着陸用の脚が下りた。気流も安定しているらしく、それほど大きな揺れは感じない。
(さて、着いたら宿にチェックインして、パメのPDA培地の確認だな)




