花とお菓子
この時期のネパールでは、マリーゴールドの花が盛りの季節だ。そのため、花輪の色は鮮やかなオレンジ色になる。
他にも赤や白、青といった花輪もあるので、適当に組み合わせて使っている。
オレンジ色は金塊の色に通じるので、富の神と絡めても縁起が良い色だ。この辺りの感覚は中国にも通じている。
ちなみに、ミカンはネパール語でスンタラ。スンは金という意味合いである。皮の固いオレンジは別の単語になるので注意が必要だ。余談だが、ミカンやオレンジ、それに金柑は、中華圏でも富の象徴とされる。
花輪は玄関の扉に、ちょうどクリスマスで使うリース飾りのような感じで掛ける。居間に設けた祭壇にもかけて、来訪者にもかける風習だ。
ゴパルとケダルが花輪を各所にかけていると、ゴパル父がスクーターに乗って帰ってきた。
「おお。電飾も模様も花輪も完成してるじゃないか。お菓子を買ってきたよ。ラクチミ祭とバイティカの日のお菓子も予約してきたぞ」
ラクチミ祭とバイティカの日は、共にティハール大祭の三日目と最終日の五日目に行う祭祀だ。
当然のようにチヤ休憩になるゴパルの家族であった。ゴパル父は辛党なので、お菓子の指定はゴパル母によるものだ。今回は、チョコバルフィと、ドゥドペダだった。
チョコバルフィは、牛乳にココアパウダーと砂糖を加えて煮固めた菓子で、食用の銀箔が貼られている。これを四角形に切り分けて供される。
ドゥドペダも牛乳に砂糖と緑カルダモン粉を混ぜて煮詰め、白くて丸い団子にして、砕いたピスタチオをトッピングした菓子である。どちらも非常に甘い。
チヤ休憩を終えると夕方になってきた。セルローティとフルローティを近所に配り終えたゴパルとケダルが、家に戻って来た。
「ケダル兄さん、あっという間に無くなりましたね。ティハール大祭三日目のラクチミ祭では、需要が凄くなりそうな気が……」
ケダルも同意している。ゴパルの家は表通りから中に入った路地にあるので、人通りはそれほど多くない。
野良犬が尻尾を振ってやって来たので、フルローティの欠片を与えた。
「まあな。首都にはガキが多いしな。今回は予行演習だから、これを考えると、ラクチミ祭からバイティカの日にかけての需要は結構でかいだろう。でもまあ親戚が少ないだけ、カブレ町に居た頃に比べると楽だぞ」
カブレ町は親戚だらけなので、こういったお菓子の配布も一大イベントになってしまう。
そして、親戚の家ごとに作るお菓子の出来が口コミで広まって、余計な騒動につながる。ガキ共に不味いと言われた家の主婦は、激怒する事になるものだ。
ケダルが家の門を押し開けて、屋上で寛いている両親に手を振って合図を送り、ゴパルに振り向いた。
「そろそろタメル地区でイベントが始める時刻だ。表通りに出てタクシーを呼んできてくれ」
ゴパルがジト目になって、前庭に駐車してあるケダルの自家用車を指さした。インドの自動車メーカーのコンパクトカーだ。
「車なら、ここにあるじゃないですか」
ケダルが鼻で笑った。
「フフン。俺も酒を飲みたいからに決まってるだろうが」




