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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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民泊サービス

 民泊サービスと聞いて、ゴパルが微妙な表情になった。

「首都ではトラブルが多発していますよ。部屋を汚したり、物や壁を壊されたりするとかで」

 協会長が素直にうなずいた。

「はい。民泊サービスを利用する客については、審査を課しています」

 協会長の話によると、まず、ポカラやジョムソンのホテル協会加盟のホテルや民宿に一定期間宿泊した客である事。次に、行動や支払いに関しての評価が基準値以上の客だけを対象にしているらしい。

「加えて、その客の親族や友人の利用は、原則として認めていません」

 ゴパルが目を点にしながら聞いている。

(あ、そう言えば、以前に似たような話を聞いたような……さすが交易民のタカリ族だなあ)


 協会長が紅茶をすすりながら、軽くウインクした。

「ちなみに、カルパナさんの御友人のジェシカさんは、不可ですね」

 ジェシカは、以前にポカラへやって来てゴパルとも面識がある。米国の有機農業団体の団体長だ。

(……短時間しか会っていないけれど、確かに、少し頼りなさそうな雰囲気があったかな。そうか、ラビン協会長さんの基準では、彼女は要注意人物なんだ)

 クシュ教授の評価も聞きたくなったゴパルであったが……カルパナとレカがロビー内へ入ってきて、合掌してて挨拶したので諦めた。

 代わりに協会長に聞く。

「という事は、今回の料理講習会は、民泊サービス向けなのですね?」


 協会長が穏やかな表情で肯定した。レカは早くもスマホを盾にして、ロビー内の客を相手に挙動不審な動きを始めている。

「はい。民泊サービスを提供してくれる家庭は、ポカラの富裕層が多いのです。ですが、彼らの食事は、基本的にネパール料理だけですからね。簡単な洋食を覚えてくれると、我々ホテル協会としても助かります」

 ゴパルが納得しながらうなずき、ついでにチヤも飲み干した。

「私の実家でも、毎日ネパール料理ですね。私が洋食を覚えて披露している段階です」

 その出来がどうだったのかは、言わないゴパルであった。

 代わりにレカがニヤニヤしながら、協会長に教えた。協会長に対しては、スマホ盾を使わなくても済むようだ。しかしゴパルに対しては、まだ使用しているが。

「ピザを煮込んだゴパルせんせー、こんにちわ~」

「な、なぜそれを知って……」

 ギョッとしているゴパルに、レカがメガネをクイっと指で跳ね上げて、スマホを盾にドヤ顔になった。

 今回は、ヨレヨレ状態の服装では無かった。パリっとアイロンがかけられてシミくすみが無い、上品なサルワールカミーズ姿だ。ちゃんとストールも肩にかけていて、クシャクシャでは無い。

 ただ、サンダルにだけは、過剰なデコレーションが付いているが。

「ゴパルせんせーのお兄様って、社長で立派な人なのねー。メモ帳で五キロバイトくらい、ネタを教えてくれたー」

(おのれケダル兄さん……!)


 内心で地団駄を踏んでいるゴパルに、今度はカルパナがクスクス笑いながらトドメを刺した。

「その話は、もう色々な場所へ広まっていますから、皆さん親しみをもってきていますよ。隠者さまもそうですし」

 ほとんどフリーズ状態になって固まっているゴパルだ。カルパナとレカが、レストランスタッフからチヤを受け取った。


 続いて、コックコートとコックシューズのサビーナがロビーに出てきて、まだ固まっているゴパルの背中をバンと強く叩いた。やはり咳き込むゴパル。しかし、我に返る事もできたようだ。

「いらっしゃい、ゴパル君。レカっちとカルちゃんも良いタイミングね」

 他の客の所へ向かった協会長に、サビーナが軽く手を振った。協会長も軽く会釈を返している。

「民泊サービス向けに、今後いくつか料理を作る予定よ。今回は、初歩中の初歩のベーコンエッグと、目玉焼き。ついでに、ズッキーニのトマト煮もするわよ」


 それを聞いたレカが、あからさまにジト目になって不満の表情になった。スマホ盾をぶんぶん振り回している。

「えええ~ありきたり過ぎるー」

 カルパナも苦笑しながら、レカに同意している。

 サビーナも内心では同意しているようだったが、レカとカルパナの抗議を突っぱねた。

「だから初歩中の初歩だって言ったでしょ。ズッキーニのトマト煮を作るから、それで我慢しなさい」

 ゴパルが、チラリとビュッフェの品々が並んでいるカウンターを横目で見て、微妙な表情になった。

(いや、その料理は、そこに並んでるヤツでしょ。どうせなら、別の料理の方が良いんだけどな)


 ビュッフェ形式は厨房スタッフが大忙しになるので、特別な一皿を作る余裕が無いのだろう。特に今回は、北インド料理が加わっているので、その香辛料の強烈な香りが洋食に移る恐れがある。そのために厨房を区切っていて、今は洋食向けの調理場面積がいつもよりも小さい。

 その説明をサビーナから聞いて、レカもこれ以上不満を言わなくなった。まだジト目のままだが。スマホを持ち直して、撮影アプリを起動させた。

「仕方が無いなー、もう。それじゃあ、さっさと始めてー」

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