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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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山道の旅

 サランコットの丘の北斜面を上っていく道は、何度も何度も折れ曲がっていく、つづら折りになっていた。当然ながら標高が急激に上がっていくので、ミニバスに乗っているのに関わらず、時節、耳がキーンと鳴る。


挿絵(By みてみん)


 耳たぶを手で引っ張って、耳抜きをし、耳鳴りを解消しながら、窓の外を見つめるゴパル。

 急カーブの連続なので、左右に体が揺れて、窓ガラスに肩が押しつけられる。さらに、道路の大穴を乗り越える際の、上下への衝撃も大きくなってきた。欧米人客の間から、罵声や悪態が聞こえはじめる。


 前方に、真っ黒い排気ガスをモウモウと噴き出しながら、小走り程度の速度で、ゆっくりと上っていくバスが見えてきた。車体も全体が排気ガスや油等で汚れていて、黒ずんでいる。

 しかし、ポカラ市内を巡回するバスに比べると新しいようだ。車体のサビや破損の程度も、まだ軽度である。

 バスは満員のようで、立っている客の姿も見える。バスの屋上に登るハシゴが付いていて、屋上には多くの荷物が紐で固定されていた。

 雨が降っていなければ、この屋上にも客が乗るのだろう。もちろん、法的には違法なのだが。

 バスの行き先は、車体の前後にネパール語で小さく書かれている事が多い。このバスは、ポカラからベニーまで行く路線だった。

 ゴパルが地名を地図検索すると、アンナプルナ連峰の西に接している、ダウラギリ連峰の直下にある町だと分かる。バグルンよりもさらに奥地にある町で、その先は、チベット系民族が住む山岳地帯になるらしい。このバスがベニーへ到着するのは、恐らく夕方になるのだろう。

 そんなバスを、音も無くヒョイと追い抜いていくミニバスであった。運転手が互いに知り合いのようで、クラクションを一回ずつ鳴らして挨拶を交わしている。

 このミニバスは、空調フィルターも良質な物を使用しているようで、ベニー行きのバスが吐き出している、真っ黒い排気ガスの中を突っ切っても、車内に臭いは入ってこなかった。


 続いて、トラックも追い抜いていく。このトラックの荷台は空で、代わりに人を乗せている。

 川砂利をポカラへ運ぶ仕事をしているようだ。バラバラと指の爪サイズの白っぽい砂利が、路面に落ちている。ポカラで川砂利を荷降ろしした後で、戻る際に、小銭稼ぎの旅行者運びをしているのだろう。

 もちろん、バスと違い屋根は無い。荷台に乗っている人達は、傘を開いていたり、ポンチョ型の雨具を着ていたりして、雨を防いでいる。そのまま雨に濡れている者も多い。

 このトラックは、荷台が空になっているせいなのか、意外に速く坂を上っていた。しかし、そんなトラックも、ヒョイと音も無く抜き去って行くミニバスであった。今度はクラクションを鳴らしていない。

 このようにして、さらに数台のバスやトラックを、ごぼう抜きしていった。


 森の中にも水牛や山羊の群れが、うろついているので、クラクションを鳴らして、道端に追い立てながら回避していく。山羊の何頭かは、吸血ヒルの攻撃を受けたようで、足元が赤く血で染まっていた。別の水牛は、病気にかかっている様子で、泥水のような下痢便を、路面に撒き散らしていた。

 これらは当たり前に日常的に見られる光景なので、ゴパルも何も反応していない。数名の欧米人客だけは、何か感づいた様子で、スマホを向けて騒いでいるようだが。


 路面には、川砂利や家畜糞の他にも色々と落ちている。今回落ちていたのは、真っ黒いタイヤの切れ端だった。タイヤ片は薄く、何かの繊維とワイヤーが飛び出している。

 それをハンドルを切って避ける事もせずに、踏み越えて走っていく。小さな振動がゴパルにも感じられた。

「タイヤのカバーか。タイヤって高価だからねえ……」

 タイヤには、別の古タイヤの皮を被せている事がある。路面が悪いので、タイヤを長持ちさせるためだ。タイヤを保護する、古タイヤ皮といった所だろうか。しかし、当然ながら滑るので、事故を招きやすいのだが。

 そのような古タイヤの皮が、走行中にちぎれて、路面に転がっているのだ。

「警察が規制しているけれど、まだまだだなあ」


 そのような事を考えていると、後方からクラクションが鳴った。ミニバスが少しだけ速度を落として、道路の左側に寄りながら走っていく。

 すぐに、ゴパルが座っている左側の列の窓とは反対側の、右側の窓の下に、何か動く物体が見えた。白い車体だ。

 それがゆっくりと、ミニバスを追い越していく。車高と、屋上に荷物を積んだカゴが付いている所を見ると、小型四駆便だろう。

 ディーゼルエンジンの音を響かせて、白い小型四駆車が、ミニバスを抜き去って行った。行き先は、ゴパルが座っている席からでは見えなかったが、多分、ジョムソン行きだろう。

 ベニーまでは舗装された道路なのだが、その先は土道だと、先程調べた際に知った。道も険しくなるので、四駆自動車が便利なのだ。

 他には、バイクが数台ほどクラクションを鳴らして、ミニバスを追い越して行った。


 坂を下ってくる車やバス、トラック、バイクは、結構速度を上げて飛ばしている。エアブレーキやエンジンブレーキをかけているトラックやバスもあるのだが、突っ込んで来る連中もいる。

 特にバイクやトラックでは、燃料節約のためなのか、エンジンを停止して、クラッチを切った状態で滑走してくる、バカ者が居たりする。

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