隠者の庵
カルパナが、隠者と修験者達が居る庵へ、食事を届けにきた。その際に、倉庫のスバシュの事を話すと、隠者が愉快そうに笑い始めた。
少し涼しくなってきているので、隠者の服装が厚着になっていた。とはいえ、基本的には薄橙色のサフラン色の道衣と、ターバン状のバンダナに、白のショールという姿には変化が無い。一方の修験者達はそのままの姿だ。
「そうかね。スバシュ君も大いにやる気を見せているな。ラムラム、結構結構」
カルパナから食事が入った円筒型の金属製弁当箱を受け取って、座ったままで、それを脇に置いた。
一方のカルパナは髪を団子にしてまとめて、白いショールですっぽりと包んでいる。その彼女が、隠者に微笑んだ。
「やはり、スバシュさんが俄然やる気を出したのは、隠者様の一言があったためだったのですね」
隠者が頬を緩めた。
額には、白線や黄色線で角が丸い四角を描き、中に横線を二本描いていた。眉間部分にも、大きな赤色の印が描かれている。ちなみに、普段は描いていない。さすがにティハール大祭の直前なので、描かざるを得なかったのだろう。
「ポカラはキノコ栽培に向いておる故な。我らもキノコであれば、遠慮なく口にできる。ここらの棚田では、除草剤を使っておらぬから、ワラも汚染されていないしな」
そして、口調を少し真面目なものに変えて、カルパナに聞いた。琥珀色をした鋭い瞳が、キラリと光る。
「さて、生ゴミボカシの使い勝手はいかがかね? そろそろ手応えを得る頃合いであろう、カルパナ」
カルパナも真面目な表情になって、強くうなずいた。
「はい。発芽障害や生育障害は見られませんでした。生ゴミボカシを、種まきの三週間前までに畑に投入すれば、それでいけそうです」
隠者が眼光を和らげた。
「ふむ。では、肥料不足は解消できそうかな?」
カルパナがにこやかに微笑んだ。
「はい。まだ、生ゴミボカシを大量生産するためには、工夫が必要だと思いますが、手応えは充分あります。より安全に使うために、ゴパル先生と今、土ボカシを試作中です」
簡単に土ボカシの説明を行うと、隠者が満足そうにうなずいた。
「なるほどな。栄養分を土に吸わせてから、それを畑に使うのか。肥えた表土を積極的に作るという事じゃな。考えたな。ワシもその方法に賛同するぞ」
恐縮するカルパナに、隠者が話を続けた。
「色々と並行して進めておるが、一貫性を忘れぬようにな。あれもしたい、これもしたいと首を振ってばかりおると、いつの間にか、つじつまが合わなくなってくるものだ。そうなると、現場の作業員や子供は、戸惑うばかりになる」
カルパナが素直に反省した。
「その通りですね、隠者さま。今回も、ゴパル先生をアンナプルナ内院から呼びつけてしまいました」
隠者が明るく笑い捨てた。
「ヤツの事は、それで良いわい。どんどん呼びつけて、減量させてやれ」




