畑の見回り
ゴパルがアンナキャンプへ戻った翌日、カルパナはKL実験の段々畑を見て回っていた。特に注目しているのは、生ゴミボカシを元肥として使った畑のようだ。
畑を囲む山羊や牛の侵入防止網を越えて、段々畑へ踏み入った。そのまま畝の間を歩いていく。
芽吹いたばかりの葉野菜である、からし菜の状態を確認しているようだ。からし菜はようやく本葉が展開し始めた段階で、まだまだ小さい。
これから間引きして株間を調節する作業をする必要があるのだが、その作業は、まだもう少し先でも問題無さそうである。
からし菜の葉を手で持って張りや色合い等を確認していたカルパナが、ほっと安堵の息をついて、二重まぶたのパッチリした黒褐色の瞳を輝かせた。
雨期明けで空がよく晴れているので、キラキラ具合も何割か増している。
「うん、良かった……生ゴミボカシを土に混ぜて、三週間後に種まきをすれば良さそう。苗の育ち具合も良いな。肥料として生ゴミが効いているって事よね」
次に、間引きも兼ねて引き抜いた、からし菜の苗の根を見つめた。
真っ白で太い根が真っ直ぐ下に伸び、側根も多く生えている。根の枝分かれも盛んで、地上部よりも根の方が多いようにすら見える。
ちなみに、この品種はサラダ用なので、それほど大きく育てる必要は無い。間引きした苗も、サラダに混ぜて使える。
「うん。良い根張り」
スマホをポケットから取り出して、接写モードで苗を撮影した。
さらに土を軽く掘って、生ゴミボカシの状況を確認した。もうほとんど原型が残っておらず、土の一部になっていた。
その土を手で摘んで臭いをかぎ、同じようにスマホで接写する。
「もう完全に腐葉土の臭いになってる。使い勝手は良さそうね」
普通の堆肥でも、腐敗している物を使うと土が臭くなり、その臭いが手に染みついてなかなか取れない。厩肥では特にそうだ。
その臭い問題も無さそうなので、自然と笑顔になる。
「さてと。それじゃあ、この映像と、『発芽障害や生育障害は出ませんでした』とコメントして、ゴパル先生とディーパク先生に送信……と。」
送信を終えたカルパナが立ち上がって、背伸びをした。
ケシャブ達が既に別の畑で農作業をしていて、カルパナを見て手を振って挨拶してくる。慌てて両手を引っ込めて、愛想笑いをしながら手を振り返すカルパナだ。
手にしていたスマホも、ポケットの中へ突っ込む。
「これで、肥料不足が解消されそう。やっとサビちゃんの要求に応えられます」
視線を段々畑の下に広がるパメの集落に向けた。カルパナ種苗店の横にある駐輪場に、スバシュの赤いバイクが停まっているのが見える。
「さて、次はPDA培地作りですね」




